ジニ係数について|日本の所得格差の原因と世界との違いもあわせて紹介

ジニ係数とは経済格差を表す数字で、0から1までの範囲で推移します。日本の経済格差に興味を持っている方は、ジニ係数とは何か気になるのではないでしょうか。今回はジニ曲線の計算方法やジニ曲線からわかることなどについて紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

ジニ係数について3つ

ジニ係数とは、所得の格差がどれくらいあるかを示す数字です。イタリアの統計学者コラド・ジニが考案したため、考案者の名前からジニ係数と呼ばれるようになりました。

ジニ係数は0から1の間で推移しますが、0や1になったときはどのような状態だと言えるのでしょうか。ジニ係数の注目すべき3つの状態について紹介するので、確認してみてください。

■1:ジニ係数が0のとき

ジニ係数は0から1の間を取りますが、0に近いほど所得格差は小さく、1に近いほど所得格差は大きくなる仕組みになっています。ジニ係数が0のときは所得格差が全くなく、完全な所得分配が成立している状態です。

所得の再分配とは、社会保障制度や所得の多い人ほど税率が上がる税金の仕組みによって、所得が多い人から所得が少ない人へ所得の分配がされることを言います。所得の再分配が上手くいけば、ジニ係数が0に近づきます。

■2:ジニ係数が1に近づいたとき

ジニ係数は最大で1なので、ジニ係数が1に近づいたときは所得の格差がかなり広がっている状態です。一般的には、ジニ係数が0.5を超えると所得格差がかなり高い状態で、是正が必要だと言われています。

所得格差が広がった社会では、一部の人に富が集中する一方で生活に困窮する人が多く生まれる可能性があります。受けられる教育に差が出るなどさまざまな問題にも繋がっていくため、早めに対策しなければいけません。

■3:ジニ係数が1のとき

ジニ係数が1のときは、1つの世帯がすべての所得を独占していて、他の世帯は所得が0の完全不均等な状態だと言えます。1つの世帯にすべての富が集まってしまうと、他の世帯の生活が成り立ちません。

ジニ係数0.5が是正が必要なラインなので、1になれば大きな問題が起こると考えられます。世界各国のジニ係数の多くは、0.5までにおさまっています。一部地域で0.6を超えていますが、1に近い地域はまだありません。

ローレンツ曲線とは

ローレンツ曲線とは、ジニ係数を求めるためのグラフです。まずは世帯を所得の低い順に並べて、世帯数の累積比率を横軸に取ります。縦軸には所得額の累積比率を取り、グラフを書いていきます。

すべての世帯の所得が同じ場合には、ローレンツ曲線は原点を通る45度の直線になる仕組みです。この直線は均等分布直線と呼ばれ、ローレンツ曲線が均等分布直線に近ければ所得格差が低く、均等曲線から遠ければ所得格差が大きい状態です。

ジニ係数・ローレンツ曲線で所得格差を測るのは何故?

ジニ係数・ローレンツ曲線が所得格差を測る際に用いられるのは、統計データがあれば簡単に格差の度合いが求められるからです。ローレンツ曲線は、世帯の所得がわかっていれば書けます。計算式も決まっているため人によって差が出ることもありません。

計算方法は、まずすべての数値間の差の絶対値を合計して平均を出し、平均差を求めます。次に全体の平均値を計算して、平均差を全体の平均との2倍で割るとジニ係数が出せます。

ジニ係数の種類

ジニ係数には、「当初所得ジニ係数」と「再分配所得ジニ係数」という2種類があります。2種類のジニ係数を利用すれば、所得の再分配によってジニ係数が改善されたかどうかを確認できます。

ジニ係数の改善度を見たい場合は、(当初所得ジニ係数 - 再分配所得ジニ係数)÷当初所得ジニ係数 をして、100をかけて割合を出します。割合が高くなっていれば、改善されている証拠です。それでは、2つのジニ係数の内容を確認しましょう。

■1:当初所得ジニ係数

当初所得ジニ係数とは、税金や社会保険料を支払う前の所得を元に計算したジニ係数です。所得には、公的年金など社会保険からの給付金は含まれていません。

当初所得ジニ係数では所得がそのまま計算されているため、所得の再分配をしない場合にどれくらいの格差が生まれているかを確認できます。再分配する前の数字なので、再分配所得ジニ係数よりも数字が大きくなるのが特徴です。

■2:再分配所得ジニ係数

再分配所得ジニ係数とは、税金や保証料を支払った後の所得を元に計算したジニ係数です。再分配所得ジニ係数を計算する際の所得には、公的年金などの現金給付や、保育・医療・介護などに関連する現物給付なども含まれています。

再分配所得ジニ係数は所得が再分配された後の所得格差を表しているため、実際の格差の状況がわかります。社会保障制度や税金による所得の再分配が機能しているかを確認するためにも、重要な数字です。

日本の現状と世界とのジニ係数の違いとは?

日本のジニ係数は、緩やかに上昇しているのが現状です。緩やかに上昇しているということは、ゆっくりとではあるものの所得の格差が拡大していることを示しています。

世界のジニ係数と比較すると、日本のジニ係数は高い方ではありません。世界のジニ係数は年度によって大きく数字が変動する傾向がありますが、日本のジニ係数は緩やかに変動する傾向が見られます。比較的安定してはいますが、上昇し続けている点に注意が必要です。

出典:統計リサーチノート No.2 不平等指標と様々な不平等について考える|総務省統計研究研修所
http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/rn/2-rn-002.pdf

日本の所得格差の原因5つ

ジニ係数を見れば、所得格差の状態がわかります。ジニ係数を見ると、日本でも所得格差が生まれていることがわかりますが、なぜ所得格差は生まれるのでしょうか。

日本の所得格差の原因は、都市部と地方の所得格差など主に5つ考えられます。どのような原因があるのか、具体的に確認しましょう。

■1:都市部と地方との所得格差

日本では、都市部と地方で所得格差があります。建設業や製造業などの企業は、業務効率を高める目的で施設を集約したり海外に進出したりといった企業努力をしてきました。しかし、業務効率は上がる一方で地方で雇用される労働者が減り、所得も減少する結果になりました。

地方から便利な都市部に人が移動するため、地方では企業が発展しにくいのも、都市部と地方で所得格差が広がる原因になっています。

■2:非正規雇用が増えている

日本で非正規雇用が増えているのも、所得格差の原因の1つです。不況が長引いた際に、企業が生き残る方法の1つとして人件費の削減を行いました。正規雇用者よりも非正規雇用者の方が安く雇えるため、正規雇用を減らして非正規雇用を増やしたのです。

非正規雇用者の方が所得が低くなる傾向があるので、非正規雇用が増えるほど所得格差が広がりました。現在、格差をなくすために「同一労働同一賃金」の導入などが進められています。

■3:非熟練労働者の需要減少している

非熟練労働者の需要が減少したことも、格差を広げる原因の1つです。新たな技術が開発されて便利になった半面、技術を用いれば今まで人が行っていた業務をこなせるようになったために、非熟練労働者の需要が減少しました。

非熟練労働者とは、技術や知識などの面で熟練していない労働者です。技術や知識などがあれば新たな技術では代替できない仕事ができますが、非熟練労働者は仕事が減って賃金が下がったため格差が広がりました。

■4:転職支援などの体制が十分ではない

日本の社会構造は、これまで正規雇用や終身雇用を重視してきました。そのために失業したときの転職支援や職業訓練などの体制が十分ではなく、適切な支援が受けられないことも格差を広げる一つの原因となっています。

転職支援が上手くいかなければ、税機雇用者として転職できず、非正規雇用になる可能性もあります。非正規雇用になると所得が下がるため、転職支援などの体制を整えることも格差を是正するために必要です。

■5:産業の構造が変わり格差が広がっている

産業の構造が変わったことも、日本で格差が広がった原因の1つです。以前の日本では建設業や製造業が盛んでしたが、業務効率化を目的とした施設の集約や海外進出で、雇用が減少しました。その分サービス業に従事する人が増えています。

建設業や製造業に従事していて職を失った人も多くいますが、これらの業種では他業種への転職が難しい傾向もあり、失業者や非正規雇用者が増えています。その結果、経済格差の原因になっています。

ジニ係数・ローレンツ曲線を利用する際の注意点とは

ローレンツ曲線を利用して計算するジニ係数は所得格差を表す際によく用いられますが、相対的な変化しか表せない点に注意が必要です。

ジニ係数では相対的な変化がわかりますが、個人の所得がどのように変化したかはわかりません。たとえば所得が100万円の人と500万円の人の所得がそれぞれ2倍になっても、ジニ係数は変化しません。

同じ比率で所得が変化した場合には格差が測定できない側面もあることを知って利用しましょう。

ジニ係数について理解しよう

ジニ係数について理解しよう ジニ係数について理解しよう

ジニ係数は、データがあれば誰でも計算ができるため、所得格差を表す際にたびたび用いられる指標です。ジニ係数を見れば所得格差があるか、改善できているかなどを確認できるため、便利に利用できます。

ただしジニ係数は相対的な変化しか表せないため、同じ比率で所得が変化した場合には格差の測定が難しい側面もあります。ジニ係数の性質を理解したうえで、活用しましょう。

[参照元]

『第3章 雇用・社会保障と家計行動 第2節』(内閣府)

https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je09/09b03020.html

『第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題』(内閣府)

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s3_2_14.html

『第3-4-12図 我が国の所得再分配による所得格差是正効果の推移』(内閣府)

https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je07/07f34120.html

『不平等指標と様々な不平等について考える』(総務省統計研究研修所)

http://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/pdf/rn/2-rn-002.pdf