海面上昇が起きるとどうなる?その原因と地球温暖化との関係も解説
地球温暖化にともなって、海面水位の上昇が地球規模で大きな影響を与えています。他国への移住を余儀なくされ、人間の生命や健康を脅かす海面上昇現象は大きな環境問題の1つです。この記事では、海面上昇が起きる原因や対策、および地球温暖化との関係などを解説します。
海面上昇とは?
国連機関の1つであるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、2021年8月に第6次評価報告書を公表しました。
従来より、近代の地球の気候は人間の活動によって劇的に変動し、対策を行わなければ平均気温は上がり続けると指摘されてきましたが、本報告書でさらにそれが裏付けされています。
また、気候変動にともなって海面の水位も確実に上昇していることが分かっています。私たちの生活に深刻な影響をもたらす海面の上昇は、早急な解決が求められる環境問題の1つです。
出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル|環境省
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html
■1:海面上昇の現状
IPCCの第6次評価報告書によると、1850~1900年の50年間から 2010~2019年の9年間の人為的な平均気温の上昇は0.8~1.3℃でした。また、2006~2018年の12年間で海面水位が3.7mm/年上昇したと報告されています。
一方、北極域の海氷の面積が1850年以降で最小に達している可能性も示されています。つまり、1950年以降地球規模で気温が上がって氷河が溶け続け、海面の水位も上昇している現状がうかがえます。
出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル|環境省
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html
■2:海面上昇の推移
同報告書によると、1901~2018年の117年間に世界の平均海面水位は20cm上昇し、その平均上昇率は1901~1971年で1.3mm/年、1971~2006年で1.9mm/年、2006~2018年で 3.7mm/年と報告されています。
この結果から、2000年以降急激に海面が上昇していると言えるでしょう。しかも海面上昇の主要な原因は、人間の活動による可能性が非常に高いと考えられています。
出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル|環境省
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html
海面上昇の原因
一酸化窒素などを排出する人間活動が大きな影響を与えていると言われています。そして「海面上昇」は気候変動の1つである地球温暖化、つまり地球の平均気温の上昇が主な原因であると考えられています。
地球温暖化がもたらす海面上昇の仕組みについて詳しく見ていきましょう。
■1:海水の体積が増えるため
地球の海面水位が上昇するのは、第一に水温が高くなることによって海水の体積が増大するためです。物質は熱によって膨張し体積を増やします。それは熱を吸収しやすい海水も同様で、しかも地球はその7割が海で覆われているため、海水の量は膨大です。
地球温暖化によって海水温度が上がったことで、海水の熱膨張により海面上昇を招くと考えられています。
■2:陸上の氷河や氷床が液体になるため
海面上昇のもう1つの原因は、陸上の氷河や氷床が融解するからです。気温が上昇すると陸上の氷が解け、海に流れ込んで海水の量が増えるため、海面が上昇します。
ただし北極の海氷の融解は、ほとんど海面の上昇にはつながりません。海氷はもともと海水が凍ってできたものなので、それが解けても海面にはほぼ影響しないでしょう。
IPCCの第4次評価報告書では、グリーンランドや南極大陸などを覆っている氷河・氷床の融解が海面上昇に結びついていると指摘されています。
海面が上昇するとどうなる?
世界の平均海面水位は1900年以降20cm上昇しており、21世紀の間上昇し続けることはほぼ確実であると、IPCCの評価報告書において言及されています。
地球の気候変動の急速な変化は人間の暮らしに大きく影響し、自国を離れて移住せざるを得なくなる人々も現れてきました。このような人々は「環境難民」または「環境移民」と呼ばれ、将来的に増加していくと予測されています。
ここからは、海面の水位が上昇すると人間の暮らしにどのような影響をもたらすのかを見ていきましょう。
■1:陸地が少なくなる
海面水位の上昇による影響の1つは、陸地が少なくなって国土が減り、人間が安全に住める場所や農地が不足することです。さらに上昇が進むと、海抜の低い島国は水没する可能性もあります。
海に囲まれた島国である日本においても、海面水位が1m上昇すると、日本の砂浜の9割が失われると予測されています。
大都市も大きな影響を受けると考えられ、現状のまま対策をとらなければ人口や産業が集中する東京や愛知、大阪の沿岸部に広がるゼロメートル地帯なども水没する可能性があるでしょう。
■2:水害が多くなる
海面の水位が上昇すると高潮や洪水による被害が増加し、海水が住宅や道路に流れ込んで住民に深刻な健康被害を及ぼします。すでに、フィジー共和国やマーシャル諸島などさまざまな国で高潮や洪水が頻発しており、大きな被害に見舞われています。
特に、平均海抜が1.5mのツバル(9つの島からなるポリネシア最西端の国)では、環境難民が発生しており、ニュージーランドやオーストラリアやへの移民が始まっています。
■3:飲料水が少なくなる
海面の水位上昇によるリスクとして、安全な飲料水や産業用水が手に入りにくくなることが挙げられます。
これは、海水が河川に逆流することによって河川からの取水が困難になったり、地下水が塩水化したりすることが原因です。この影響は、農業や工業の生産量減少にもつながります。
海面上昇は水不足や食糧不足、工業の生産性の低下を招く問題として、人間の生命や暮らしに直結する課題と言えるでしょう。
海面上昇させないための対策
前述したとおり海面上昇は確実に進行しており、日本人にとっても決して他人ごとではない問題です。その一方で、IPCCの評価報告書でも再三警告されていることから、世界ではさまざまな対策が講じられています。
続いて、海面上昇に関わる対策を紹介していきましょう。
■1:防波堤などの増設や整備をする
海面上昇への物理的な対応策として、防護と保全に関する設備の設置・整備があります。ハード面では、護岸・堤防・防潮水門・橋梁・下水道ポンプなどの設置や整備、強化などは必須の対策となるでしょう。
またソフト面では、浸水シミュレーションや波浪観測値などの提供、避難行動の呼びかけなど、いかに海面上昇による被害を食い止めるかを追究し、情報の収集とその活かし方を考えていく必要があるでしょう。
■2:地球温暖化の対策をする
海面上昇の根本的な原因である地球温暖化に対する取り組みも、海面上昇を防ぐための手段の一つです。そして、地球温暖化対策はすでに世界各国が取り組んでいます。
ブラジルで1992年に開催された地球サミットで生まれたのが「気候変動枠組条約」で、それに基づいて具体的なルール作りの結果が「京都議定書」です。さらに「パリ協定」では、2020年以降の温暖化対策について取り決めがされています。
パリ協定においては気温上昇の上限目標が決められ、現在その目標に向かって世界各国が努力しています。たとえば、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを取り入れたり、森林を再生したりするのもその一部です。
地球温暖化対策で海面上昇をおさえよう
海面上昇による被害は深刻で、地域によっては国土が減って別の国に移住せざるを得なかったり、生命や生活に危機が及んだりする可能性があります。
地球の平均気温は確実に上昇し、それにともなって海面も上昇しています。私たちができる地球温暖化対策をして、海面の上昇を食い止めましょう。
【この記事に関連する目標】
海面上昇の問題は、「持続可能な開発目標 SDGs」の目標13:気候変動「気候変動に具体的な対策を」や目標14:海洋資源「海の豊かさを守ろう」に該当します。
最近の日本の取り組みとしては、G20大阪サミットにおいてSDGsの主要課題について言及され、気候変動に関する取り組み推進の共通理解を得ています。
[参照元]
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気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル(環境省)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html『気候変動2007:統合報告』(環境省)
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/syr_spm.pdf『我が国の水利用の現状と気候変動リスクの認識』(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/000017984.pdf『持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割』(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202108.pdf