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経済の新たな動き
「ESG投資」が、
【SDGs
(持続可能な開発目標)】の
達成を後押しする

これまで人類は産業と経済を発展させることによって、便利で豊かな暮らしを手に入れてきました。しかし、地球温暖化や環境破壊が進んだり、国や人の間の貧富の差が広がったりしていることで、これまでと同じ豊かな暮らしを続けていくことが難しくなっていると考えられています。

地球温暖化による気候変動や未知の災害の多発、エネルギー問題、貧困や飢餓、ジェンダーを始めとする人権の問題など、人類はさまざまな問題を抱えています。このままでは、将来、私たちが地球で安心して暮らせなくなる日が訪れるかもしれません。そんな危機感の中、世界では、環境保護と経済発展を両立させ、国や人の間の不平等をなくすことで、「将来にわたって豊かに暮らし続けることができること」=「持続可能性」を目指す取り組みが活発になっています。

2015年には国連で「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択され、経済を支える企業や投資家の間でも、持続可能性に注目した動きが活発になっています。その中心となっているのが、持続可能性に貢献している企業に投資する「ESG投資」です。今回は、SDGsとESG投資について詳しくご紹介します。

ESG投資とは?
SDGsをきっかけに
広まった
新しいお金の動き

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■投資とは? 経済を支えるお金の流れ

ESG投資について解説する前に、まず「投資」について知っておきましょう。

投資とは簡単に言うと、「よい会社」にお金を預けて、その会社が成長することによって、預けたお金以上の見返りを得ようとすることです。そして、会社などに投資する人のことを「投資家」と言います。

うまく「よい会社」を選ぶことができると、見返りは大きくなります。投資の世界では、これをリターンと言います。会社を選ぶのに失敗すると、見返りがないばかりか損をすることもあります。これをリスクと言います。

では、投資家はどんな基準で「よい会社」と判断するのでしょうか。

たくさん儲(もう)かりそうな会社が「よい会社」でしょうか? もちろんそれも大切な基準です。しかし、たくさん儲かりそうだからといって、事業の中で環境に悪い影響を与えていたり、働いている人を大切にしなかったりする会社ばかりに投資していたら、どうなるでしょうか? 投資家や企業は儲かったとしても、社会がよりよくなるとは思えませんね。

そこで、投資した会社が成長することで儲かるかどうかだけではなく、「世の中がよりよくなるかどうか」にも注目して、投資する会社を選ぼうという動きが世界で広まっています。

この動きを代表する例が、「ESG投資」と呼ばれる投資の方法です。

■ESG投資とは?

ESG投資の「ESG」とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス=企業統治)」の頭文字をとったものです。

これまでの投資先の選び方は、その企業が「どれだけ利益を上げているか」「どのようにお金を得て、どのようにお金を使い、手元に資産がどれだけ残っているか」「借金などがないか」という財務情報が主な判断材料とされてきました。つまり、儲かっている会社が「よい会社」と思われてきたのです。

一方で、ここ十数年の間に注目が高まっているESG投資は、こうした財務情報以外に、「環境や社会、ガバナンス(企業統治)に配慮し、どれだけ社会や働く人に貢献できているか」という非財務情報も基準にして投資先を選ぶ方法です。

つまり、ESG投資では、「儲かっている」という基準だけでなく、「事業を行ううえで環境保護に配慮している」「地域社会に貢献している」「安心して働ける労働環境を整えている」といった基準も合わせて「よい会社」と評価されます。

■SDGs(持続可能な開発目標)とESG投資の関係

2015年に国連で採択されたSDGsは、世界中のすべての人が将来にわたって豊かに安心して暮らし続けていくためには、どう行動すればよいかと考えて作られた17の目標から成ります。その中で、環境保護と経済発展を両立させることや、貧困や飢餓、貧富の差、ジェンダーの問題といった、国と人の間の不平等をなくすことなどが、目標として掲げられています。

特にSDGsの「目標17.パートナーシップで目標を達成しよう」では、開発途上国と先進国、あるいは官民の垣根を越えて、持続可能な社会の実現のために、世界中が共に協力していくことを目標として掲げています。SDGsの17の目標は、相互に複雑に関係しあっています。こうした課題を解決して、持続可能な社会を作っていくのは、国だけの仕事ではありません。政府はもちろん、企業や研究者、市民団体、地域の人々、大人から子どもまで、私たち一人ひとりが今ある問題を知り、将来を考え、行動に移すことが求められています。

パートナーシップとは、「互いに協力して働くこと」という意味があります。SDGsが採択されて以来、政府や自治体から、経済を支える企業まで、共に課題の解決に取り組む動きが世界で広がっています。国と企業、企業と研究機関、自治体と企業、あるいは異なる業種の企業と企業といった、これまでにない新しいパートナーシップがあちこちで見られるようになっています。

SDGsをきっかけに広く知られるようになった持続可能な社会を目指す取り組みは、企業や投資家といった経済界にも変化を起こしました。その変化の中心となっているのが、ESG投資なのです。

たとえばこれまで、原油の取引は世界の経済の情勢を示す大きな指標であり、大規模な投資が行われてきました。しかし、原油は有限で数十年後には枯渇してしまうと言われています。さらに、石油をはじめとする化石燃料は、消費することで二酸化炭素を多く排出します。地球温暖化と気候変動を防ぐために、世界的に二酸化炭素の排出量の規制が進められていて、これからは、再生可能エネルギーなどの新しい資源が中心になっていくと考えられます。こうしたことから、持続可能性という視点で考えて、原油を扱う企業に投資するのをやめる投資家も出てきているほどです。

このように投資家の間では、すでに「この企業はSDGsの目標を経営に取り入れているか」「SDGsにどう取り組んでいるか」という視点から、投資をするかどうかの判断が行われています。

これは、持続可能性に配慮していない会社が、将来的にブランドイメージが下がり、消費者に選ばれなくなったり、優秀な人材が確保できなくなったりして、業績が悪くなる可能性が高くなってきたためです。こうしたことから、企業もSDGsについてまったく考えずに、事業を行っていくのは難しくなっています。日本の企業の間でも、すでにESG投資や持続可能性を重視する考え方が広まっていて、持続可能性に配慮した製品や技術の開発に積極的に取り組んだり、経営戦略にESG(環境、社会、ガバナンス)の視点を取り入れたりする企業が増えています。

政府、自治体、経済を支える投資家や企業まで、SDGsの目指す持続可能な開発という考え方とESG投資が広まることで、新たなパートナーシップが生まれ、みんなが協力してよりよい社会を作っていこうという意識が広がりを見せているのです。

ESG投資はどうして
注目されているの?
ESG投資拡大の
背景と動き

ここで、ESG投資についてもう少し詳しく見てみましょう。

■ESG投資の対象になる「よい会社」の基準とは?

「よい会社」とは、どういう基準で決まるのでしょうか? ESG投資の対象として評価されるのは、以下のようなポイントです。

  • Environment(環境)…環境に配慮している。二酸化炭素の排出量を抑える努力をしている、工業排水などで環境汚染をしていない、再生可能エネルギーを積極的に取り入れている
  • Social(社会)…社会に貢献している。地域の発展に貢献している、労働環境の改善に取り組んでいる、女性の登用・活躍の推進に力を入れている
  • Governance(ガバナンス=企業統治)…収益を上げながら、法律や道徳を守り、不正を防ぐ管理体制になっている

こうしたESG(環境・社会・ガバナンス)の視点からの評価が高い企業が、「よい会社」とされるのです。

企業が生産するモノやサービスも、たくさん売って利益が出ればよいという時代ではなくなってきています。

たとえば、SDGsでも「目標13.気候変動に具体的な対策を」と地球温暖化をくい止めるために今すぐ行動を起こすことが掲げられています。企業の間でも、従来より少ない電力で使える省エネルギータイプの家電、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーによる発電といった、地球温暖化の対策につながる商品の開発が進められています。

オフィスビルや工場にソーラーパネルを取り付けたり、AI(人工知能)で消費電力をコントロールしたりして、エネルギーを使いすぎないように工夫する会社もあります。さらに、自治体と協力して地域の経済の活性化に貢献したり、女性の登用を積極的に行ったり、子育てしながらでも働きやすいように労働環境を整えたりしている会社も増えてきました。

これらはほんの一例ですが、企業側もSDGsやESG投資の共通点である「持続可能性」に配慮した商品開発や事業活動を行っていかないと、長い目で見たときに生き残っていけなくなるという認識が広まりつつあります。

持続可能性という考え方が広まったことにより、企業にとっても、投資家にとっても、「よりよい社会につながる」という新しいビジネスチャンスが増えたとも言えます。ESG投資は、投資家と企業との関係を「儲かるかどうか」というだけでなく、「持続可能な社会を共に作っていこう」という視点でつなげる役割も果たしているのです。

■ESG投資を加速させた世界の動き

ESG投資の市場規模は、年々拡大し続けています。世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance=世界持続可能投資連合)が1年おきに公表している報告書があります。このデータを見ると、ESG投資の投資額は、2016年から2018年までの2年間で34%増加し、30兆6830億ドルに達しています。日本円ではおよそ3400兆円という金額です。日本の1年間の国家予算は約100兆円ですから、その33倍ものお金が、持続可能性に貢献している企業に投資されていることになります。

ESG(環境・社会・ガバナンス)という考え方が知られるようになったのは、2006年に当時の国連事務総長だったアナン氏が、「責任投資原則(PRI=Principles for Responsible Investment)」を提唱したことがきっかけです。この「責任投資原則(PRI)」では、投資を判断するときにESG(環境・社会・ガバナンス)の視点を取り入れることを原則としています。

2008年には、アメリカから始まった世界的な大不況、いわゆるリーマンショックが起こり、投資の世界にも影響を与えました。リーマンショック後は、投資家の間でも、「ただ儲かればよい」という短絡的な利益を目指す投資の考え方に批判が高まり、世界で責任投資原則(PRI)に賛同し署名する投資機関が増えたのです。

日本でも、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、責任投資原則(PRI)に署名しました。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、日本の年金に関わるお金150兆円以上を管理・運用している、経済に影響の大きい組織です。このことから、日本でもESG投資への関心が高まっています。

日本の経済界に大きな影響を持つ経団連も、2017年に7年ぶりに企業行動憲章を改訂しました。この中で、Society5.0(ソサエティー5.0)というコンセプトを打ち出し、企業も事業の中に持続可能性という考え方を取り入れ、SDGsの達成に貢献していくという方針が示されました。

ESG投資はこのように世界の経済界に広まり、お金の流れを変えつつあるのです。

ESG投資の
メリット・デメリット

ESG投資のメリット・デメリット ESG投資のメリット・デメリット

ESG投資は経済の面から、持続可能な社会の実現を後押しするものとして期待されていますが、デメリットもあります。ここではESG投資のメリットとデメリットについてご紹介しましょう。

■ESG投資のメリット

⑴長期的な投資に向いている

新しいテクノロジーやビジネスモデルに取り組んで急成長している企業への投資は、短期的に大きな利益が見込めますが、業績悪化などのリスクも高くなります。

一方で、持続可能性に取り組む企業は、社会が大きく変化するとされているこれからの時代において、経済の変化、自然環境の変化、法律や規制の変更、労働や人権に関する価値観の変化といったリスクに対応する能力が高くなると考えられます。このため、ESG投資は、長期的な資産運用に向いている投資の方法として、注目が高まっています。

⑵安定した運用が期待できる

短期的な利益を追求するタイプの企業は、業績の良し悪しによって、投資の評価が上下しやすいのが特徴です。また、その企業で不正や不祥事があれば、企業価値は一気に下がってしまいます。

その点、持続可能性に配慮している企業は、長期的な視点に立って経営されているため、資産価値が安定しやすいと考えられ、投資家にとっても安定した運用ができる可能性が高くなります。

⑶社会の課題の解決に貢献できる

ESG投資の投資先は、地球温暖化、環境汚染、貧困、人権侵害など、SDGsやESGのさまざまな課題の解決に取り組んでいる企業になります。こうした企業に投資することで、投資する人も社会的な課題の解決に貢献できるのです。

■ESG投資のデメリット

⑴短期的な利益は少なくなりやすい

ESG投資では「儲かるかどうか」だけでなく、SDGsやESGにどのように取り組んでいるかが評価されるため、短期的なリターンは小さくなりやすい傾向があります。

⑵投資先を選ぶのに時間がかかる

財務情報のほかに、ESGの要素も調べたり分析したりする必要があるため、投資先を選ぶのに手間や時間がかかってしまうことが考えられます。個人には判断が難しいこともあるため、ESG投資を扱う投資信託を利用するのも一つの方法です。

投資や資産運用と聞くと、自分には関係ないと思う人も多いかもしれません。大切なことは、SDGsのテーマである「持続可能性」という考え方が、ESG投資という方法が知られるようになったことで、経済界にも影響を与えているということなのです。

私たちの暮らしは、日々の生活に必要なものをお金を出して買うことで、成り立っています。食べ物、洋服、家、家具・家電、水道、電気……。これらはすべて、誰かが生産して運んでくれているから、使うことができます。つまり私たちの便利な生活も経済によって支えられているのです。私たち一人ひとりも経済と無関係ではありません。

10年後、20年後、50年後の、地球と社会の様子を想像したことがありますか? 私たちの暮らしはもっと便利になっているでしょうか? 豊かな自然がなくなってしまっていないでしょうか? どんな社会なら、みんなが安心して幸せに暮らせるでしょうか?

ESG投資に代表される経済の動きをきっかけに、自然環境やよりよい社会について考えを深めてみましょう。

【この記事に関連する目標】

※他の目標とも関連していますが代表的なものをあげています。

[参照元]

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ESG投資とは? | 大和証券

Global Sustainable Investment Review 2018(JSIFによる日本語訳)

https://japansif.com/gsir2018jp.pdf