世界の貿易の
格差をなくす
取り組みフェアトレード
【SDGs】とのかかわりは?
コーヒーやチョコ、オーガニックコットンの衣類などを買う時に、「フェアトレード」という表示やラベルを見たことがある人もいるかもしれません。「フェアトレード」とは、日本語では「公平な貿易」という意味です。
世界には、先進国と開発途上国の間の豊かさに大きな差があり、不公平な貿易が行われていることが問題になっています。また人と人の間にも、貧富の差や男女格差、教育を受けられない子どもといった「不平等」があります。
こうした不平等をなくすための取り組みの一つとして広がりを見せているのが、開発途上国の生産者が貧しさから自立することを、先進国の消費者が支援できる「フェアトレード」という仕組みです。
世界の貿易の
「不公平」って
どんなもの?
■日本で売られている格安のバナナは誰が作っている?
スーパーで目にする海外から輸入されたバナナやコーヒー豆は格安のものも多く、食費をやりくりするのに助かるため、よく買う人も多いと思います。しかし、なぜ、こんなにも安く売られているのでしょうか? 手に取った商品は、どこで誰が作っているのか考えてみたことはありますか?
先進国で販売されている格安の食品や日用品の中には、コストを抑えるために物価や人件費の安い開発途上国でつくられたものを輸入している場合が多くあります。たとえば、日本で安く売られているバナナは、南米やアジアなどの農園でつくられたものが、仲買・卸・流通など輸出入に関わる業者を経て、日本の小売店の店頭に並び、消費者の手に渡っています。
■先進国と開発途上国の違い
先進国と開発途上国は、経済が発展しているかどうかという点で大きな違いがあります。
経済が発展している先進国では、工業化が進んでいて、電気・水道・交通・通信などのインフラが整備され、医療や教育も充実し、国民も安定した暮らしを送ることができます。
一方で、経済が発展していない国を開発途上国、あるいは発展途上国と言います。単に、途上国と言うこともあります。工業化が遅れているため、農業や漁業といった一次産業に頼っていて、国民一人当たりの所得は低くなります。多くの国民が貧しさに苦しみ、不安定な暮らしを送っています。国民の暮らしを安定させるためにインフラの整備をしたり、医療や教育を充実させたりするだけの経済力がないので、先進国から経済的・技術的な支援を受けていることがほとんどです。
先進国と開発途上国の線引きは、国連や世界銀行といった国際組織によって定義がまちまちなのですが、一般的には経済開発協力機構(OECD)※1が3年ごとに発表している「政府開発援助(ODA)※2受け取りリスト」に乗っているかどうかで判断されます。つまり、外国からの支援を受ける必要があるくらい経済力が弱い国が、開発途上国とされるということですね。
※1 経済開発協力機構(OECD)…世界の経済全般について協議しながら国際的なルールをつくっている組織。ヨーロッパ諸国、アメリカなどの先進国を中心に、30以上の国で構成されていて、日本も参加している。経済成長・自由貿易の拡大・開発途上国への支援の3つが大きな目的。
※2 政府開発援助(ODA)…政府や政府の関係機関が、開発途上国の発展のために資金や技術の提供を行うこと。
■先進国と開発途上国との貿易における不公平
外国の相手と商品を売買することを貿易と言いますが、これまでの先進国と開発途上国の間の貿易では、商品を買う側の先進国の企業の立場が強く、一方的に低い価格で取引することを決めたり、急に取引をやめてしまったりと、開発途上国の取引相手や生産者に不利な取引となっていることがよくありました。
生産者の労働環境が配慮されることは少なく、低賃金で長時間働かされたり、劣悪な環境で働かされたりということも行われていました。また、利益を優先するあまり、農薬を大量に使っていたり、農地を広げるために過剰に森林を伐採したりして、環境に負荷をかけてしまっていることも多かったのです。
先進国で安く売るために、「生産者の働きに見合った賃金が支払われない」「生産者が過酷な労働を強いられる」「安く大量に作るために農薬や化学肥料がたくさん使われて環境が破壊される」といったことが、世界各地で起こっています。中には、子どもが強制的に働かされる児童労働が行われている地域もあります。
もともと貧しさに苦しんでいる開発途上国の生産者、たとえばバナナ農園で働く人々が、さらに苦しい思いをしていることが問題となってきたのです。
バナナが安く買えるのはうれしくても、その安さのために誰かが犠牲になっていると考えると、不公正な貿易の意味がよくわかるでしょう。「この状況を改善したい」と考えられたのが、「フェアトレード」という取り組みです。
「フェアトレード
=公平な貿易」って
どういうこと?
■フェアトレードとは?
フェアトレードは英語で“Fair Trade”、日本語では「公正な貿易」という意味です。開発途上国でつくられたものを適正な価格で継続的に売買することで、立場の弱い開発途上国に不利な取引をなくそうという国際的な取り組みのことを言います。
この場合の適正な価格とは、生産者の労働の対価として見合う金額や、生産者が安定した暮らしを送ることができる金額のことです。先進国の企業など買う側が適正な価格で継続的に取引することで、開発途上国の生産者の生活を支えたり向上させたりすることを目指すのがフェアトレードの大きな特徴です。
また、一時的な利益を優先して、生産者を無理に働かせたり、環境破壊につながるような農業を行ったりすることを見直すことも、フェアトレードの目的の一つになっています。長くよいものをつくり続けることができるように、生産者が安心して働き続けることができる労働環境を整えたり、農薬の使用量を減らす有機農法を取り入れたりということが行われています。
フェアトレードのもともとの目的は、適正な対価を支払い対等な立場で取引をすることでしたが、現在では、生産者の生活を向上させるという意味合いが強くなり、さまざまな取り組みが広がっています。たとえば、フェアトレードに取り組む団体や企業が生産地の人々と協力して、農業や工場での技術指導を行ったり、生産地で日本の農協のような組織をつくったり、子どもたちが勉強できるように学校を建てたりするといった形で、支援を行っている例もあります。
■フェアトレードを推進する団体や企業が取引を見守っている
フェアトレードは、1960年代にヨーロッパから広まった取り組みで、1990年前後にはフェアトレードを推進する民間団体が集まって国際的な組織もつくられました。こうした組織は、国際的なフェアトレードの基準を定め、この基準を満たしているかどうかのチェックをして、認証された製品にラベルを発行するという活動もしています。今では、ヨーロッパを中心に、国際的なフェアトレード認証製品であることを示すラベルが広く普及しています。
日本でも、フェアトレードに取り組む団体や企業、フェアトレード商品を扱うお店が、年々増え、フェアトレード認証ラベルを店頭で目にすることも増えています。また、企業が開発途上国の生産者と直接契約してフェアトレードに取り組む例も見られます。
■フェアトレードは消費者にもできる身近な国際協力
フェアトレードの商品は、コーヒー豆やチョコレートの原料となるカカオが代表的です。さらに、バナナ・スパイス・紅茶・砂糖など食品が中心になっています。食品以外では、衣類などの原料となるコットンから衣料品、かごなどの手工芸品まで、さまざまなものがあります。
消費者がフェアトレードの商品を選んで買うことは、安全で安心な商品を手に入れることができるだけでなく、生産者の暮らしをよくすることにつながります。フェアトレードは、消費者にとって身近に取り組める国際協力でもあるのです。
フェアトレードには、
どんな基準や
ラベルがある?
フェアトレードの商品には、国際的な基準を満たした認証ラベルがついているものとついていないものがあり、日本でよく見られるフェアトレードの商品は大きく3つに分けられます。
- 「国際フェアトレード認証ラベル」…国際フェアトレードラベル機構という組織の基準を満たしている商品であることを証明するラベル
- 「世界フェアトレード連盟保証マーク」…世界フェアトレード連盟という組織の基準を満たしている団体であることが保証されるマーク。製品にラベルをつけるには別途認証が必要
- そのほかのフェアトレード…フェアトレードに取り組む企業が独自に基準を設けている製品。企業が生産者と直接取引することが多い
ここでは、フェアトレードであることが国際的に認められる認証ラベルについて、詳しく見てみましょう。
国際フェアトレード認証ラベル
国際フェアトレード認証ラベルは、原料が生産されてから、輸出・輸入され、加工・製造されて製品となるまでのそれぞれの過程において、国際フェアトレードラベル機構※3が定める、国際フェアトレード基準※4を満たしていることを証明するラベルです。
※3 国際フェアトレードラベル機構…Fairtrade International(FI)、1997年に各国のフェアトレードに関わる組織が集まって設立された組織。本部はドイツにあって、ヨーロッパを中心とする各国の組織がメンバーとなり、認証ラベルのライセンス業務や啓蒙(けいもう)活動を行っている。日本では、フェアトレード・ラベル・ジャパン(FLJ)がメンバーとして活動している。
※4 国際フェアトレード基準…国際フェアトレードラベル機構が設定する、フェアトレードに関する基準。開発途上国の小規模生産者と労働者の、持続可能な開発を目指して設定され、定期的に見直しも行われている。「経済」「社会」「環境」の3つの柱で考えられているのが特徴。認証を取得している生産者、輸入者、製造者は、フェアトレード認証機関であるFLOCERTやFLJから定期的な監査を受けている。
[国際フェアトレード基準]
経済的基準 |
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社会的基準 |
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環境的基準 |
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出典:国際フェアトレード基準|fairtrade japan|公式サイト
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_standard.php
世界フェアトレード連盟(WFTO)保証マークとラベル
WFTOマークは、世界フェアトレード連盟※5に加盟し、生産者の労働条件・児童労働・環境などに関して、基準を満たした団体であることが保証されるマークです。基準の原則は「フェアトレード10の指針」※6で示されています。加盟している生産団体や販売団体がマークとは別に認証を受けることで、製品にWFTOラベルを表示できます。
※5 世界フェアトレード連盟…World Fair Trade Organization(WFTO) オランダに本部を置く国際組織。1989年に、開発途上国の弱い人々の自立と生活の改善を目指す世界のフェアトレード組織が結成した。欧米や日本の輸入団体と、アジア・アフリカ・中南米の生産者団体が加盟して、公正な貿易の普及を目指している。
※6 フェアトレード10の指針…世界フェアトレード連盟が定める、フェアトレード団体が守るべき10項目の原則。加盟団体が基準を満たしているかどうかモニタリングも行われている。国際的なフェアトレードの基準としても知られる。
[フェアトレード10の指針]
- ⑴生産者に仕事の機会を与える
- ⑵事業の透明性を保つ
- ⑶公正な取引を実践する
- ⑷生産者に公正な対価を支払う
- ⑸児童労働及び強制労働を排除する
- ⑹差別をせず、男女平等と結社の自由を守る
- ⑺安全で健康的な労働条件を守る
- ⑻生産者のキャパシティ・ビルディング(技術や能力の向上)を支援する
- ⑼フェアトレードを推進する
- ⑽環境に配慮する
出典:10 Principles of Fair Trade(フェアトレードにおける10の原則)|WFTO
出典:フェアトレードの10の指針 |【ピープルツリー】
https://www.peopletree.co.jp/fairtrade/standard.html
こうした認証ラベルは消費者にとっても、フェアトレードの基準を満たしていることが、ひと目でわかるものになっています。
近年は日本でも、フェアトレード認証のものを目にすることが多くなりました。スーパーなどに行った時は、ぜひ認証ラベルを探してみましょう。
<参考>フェアトレード認証に関する主なラベル
国際フェアトレード認証ラベル
世界フェアトレード連盟
(WFTO)認証ラベル
SDGsでも
課題になっている
「人や国の不平等」と
フェアトレードの関係
SDGs(持続可能な開発目標)は、世界中の人々が将来にわたって豊かな暮らしを続けていくためにはどうしたらよいのかと考えて作られた、世界共通の17の目標で構成されています。
このうちの一つに「目標10.人や国の不平等をなくそう」という目標が掲げられています。この目標では、貧富の差や、性別、年齢、国籍による差別や格差が残っていることを問題視して、その差を埋めていくために何をするべきかが示されています。
開発途上国と先進国の間の不公平な貿易が、開発途上国の発展を妨げ、途上国と先進国の経済的な格差をなくすことができない要因になっていることを背景に、この目標では公正な貿易を促すターゲットも定められています。
フェアトレードという仕組みも、この公正な貿易を広めるために役立つ取り組みとして、世界で注目が高まっているのです。
さらに、フェアトレードの考え方は貿易の面だけでなく、貧困、環境、雇用、子どもや女性の不平等、持続可能な経済発展なども重視していることから、SDGsのさまざまな目標とも密接に関係しています。フェアトレードと関わりのあるSDGsの目標には以下のようなものが挙げられます。
- 「目標1.貧困をなくそう」…生産者の労働環境を改善することで、貧しさに苦しむ人々が自立した生活が送れるようにすることを目指しています。
- 「目標2.飢餓をゼロに」…安定して食料を供給できるように、持続可能な農業を目指すこともフェアトレードの理念の一つです。
- 「目標4.質の高い教育をみんなに」…生活のために働いている子どもは学校に行けず、教育の機会も奪われています。児童労働をなくすこともSDGsとの共通のターゲットです。
- 「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」…世界では男性に比べて女性の雇用の機会が少ないことが問題になっています。フェアトレードの活動でも、女性の自立を促すため、職業訓練などの支援を行っているケースもあります。
- 「目標14.海の豊かさを守ろう」「目標15.陸の豊かさも守ろう」…有害な農薬や化学肥料を使ったり、農園を広げるために森林が破壊されたり、農業排水が海に流れ込んだりしていることが、開発途上国を中心に問題になっています。フェアトレードでは、有機農法を取り入れることで環境に負荷の少ない農業を実践しています。
フェアトレードの
課題とこれから
フェアトレードの国際的な普及に取り組む組織の活動により、輸出や輸入に関わる企業の意識も変わり、フェアトレードの取り組みは世界中で広まっています。
国際フェアトレードラベル機構のレポートによると、2017年の世界のフェアトレード認証製品の市場規模は、約85億ユーロ、日本円にして1兆700億円以上になっています。日本でもフェアトレード認証製品の2016年の市場規模は113億円6,000万円にのぼり、前年比で13%も増えています。特にコーヒー・カカオ・コットンの拡大が目立ちます。
ただし、日本ではフェアトレードの認知度がまだまだ低く、フェアトレードの基準が正しく理解されていないことも課題になっています。中には、第三者機関によるチェックや認証を受けないまま、フェアトレード製品として販売されているケースも見られます(法律上は問題ありません)。一方で、企業や団体が独自に厳しい基準を設けている場合もあります。国際的なフェアトレードの基準を満たしている製品かどうか、あるいは企業の独自の基準はどんなものか、企業のホームページなどで確認してみましょう。
消費者の立場からもフェアトレードについて正しく理解しないと、弱い立場にある生産者を支援することにつながりにくくなり、フェアトレードは広まっていきません。
まずは、スーパーに並ぶ輸入品を手にとった時、それがどこで、どのように生産されているか、想像してみることから始めてみましょう。
[参照元]
※参照元サイトのURL変更や掲載期間終了により、ページが閲覧できない可能性があります。ご了承ください。
フェアトレードミニ講座|フェアトレードとは?|fairtrade japan|公式サイト
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/course.phpフェアトレードとは? | わかちあいプロジェクト
https://www.wakachiai.com/fairtrade/about_fairtrade/フェアトレードとは? 3種類のフェアトレードと児童労働の関係 | 世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)
https://acejapan.org/childlabour/report/fairtrade国際フェアトレード基準|フェアトレードとは?|fairtrade japan|公式サイト
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_standard.php認証について | オーガニックコットン、フェアトレード・エシカルファッションの通販サイト。フェアトレードの【ピープルツリー】
https://www.peopletree.co.jp/about/certify.html#【持続可能な開発目標(SDGs)とフェアトレードの、密接な関係】... - Fairtrade Label Japan (フェアトレード・ラベル・ジャパン) | Facebook
https://www.facebook.com/fljapan/posts/1069055409811160/SDGsとフェアトレード | わかちあいプロジェクト
https://www.wakachiai.com/fairtrade/about_fairtrade/sdgs/SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」に関連してフェアトレードについて学ぼう
https://gooddo.jp/magazine/sdgs_2030/reduced_inqualities_sdgs/9041/