教育用語解説|GIGAスクール構想 教育用語解説|GIGAスクール構想

2023.2.1

GIGAスクール構想とは?概要や目的、課題を専門家が解説

「GIGAスクール構想」という言葉、ニュースや学校からのお知らせなどで触れたことがある人も多いと思います。2019年2月に文部科学省が打ち出したもので、簡単に言うと、「これから必要とされる学びの環境を、ICTをもっと活用してこのように実現していく」と目指す姿を示したものです。GIGAスクール構想の概要と併せて、ICTを活用した学びが、なぜ、どのように必要なのかを改めて解説します。

GIGAスクール構想とは?

GIGAスクール構想のGIGAは、Global and Innovation Gateway for Allの略で、「GIGAスクール構想」は「Society5.0時代を生きる子供たちに相応しい、誰一人取り残すことのない公正に個別最適化され、創造性を育む学びを実現するため、『1人1台端末』と学校における高速通信ネットワークを整備する」構想のことです。

これらの環境整備を、当初は3年間かけて行う予定でした。しかし、コロナ禍やそれに伴う全国一斉休校の影響によって、予定を前倒して1年半で完了しました。2年分の予算を合わせて4610億円を投じ、現在、ほぼすべての小・中学校で1人1台端末とインターネット接続・無線LAN整備環境が整ったほか、高校でも導入が進んでいます。これまで日本の学校のインターネット環境は諸外国と比べて劣っていましたが、世界トップクラスの環境をごく短期間で実現したことで、各国から注目を集めています。

GIGAスクール構想はなぜ必要?

世界共通の流れとして、大学で専門的なことを学んだり社会に出て仕事をしたりする際に、デジタル環境を整え、デジタルを活用することは何年も前から必要不可欠とされていました。さらに、ビッグデータやAI、ロボットテクノロジーといった最先端技術が進化し、それらを使いこなす人材の育成もますます必要とされます。しかし、それまでの学校教育環境は「紙と鉛筆」が主体で、社会で必要なスキルを学校で身につけていないのではないかという課題意識が、米国や中国、シンガポールなどを中心に沸き起こったのです。その課題意識は日本でも同様でした。加えて、日本固有の状況として、2020年度から実施されている学習指導要領が「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指しており、そのためにデジタル環境を活用することが効果的だと考えられたからです。

GIGAスクール構想が子どもにもたらすメリットは?

1人1台端末を活用した学びは、学校での授業を大きく変える可能性を持っています。
まず、児童・生徒の立場から見ると、これまでは先生の話を聞いたり、黒板の内容をノートに書いたりして学んでいた内容を、それだけでなく自分の意見を入力して発表し、友だちと意見を交換したり、文献を読み比べて分析するといった一段深い学びに取り組みやすくなりました。従来は授業中に一度に発言できるのは1人だけだったのが、1人1台端末環境によって、複数の子どもが同時にタブレット端末上で自分の意見を書き込んで発表したり、複数の友だちの意見を比べたりすることが可能になります。また、中学・高校生になれば、特定のニュース記事を調べて、メディアによる論調の違いを比較・分析したり、議論したりすることができます。翻訳機能を使えば海外メディアも対象に調べることもでき、リアルタイムの出来事を多角的に分析する力が育ちます。

GIGAスクール構想が教師にもたらすメリットは?

教師の立場から見ると、現状では端末を授業中に活用する機会は限られているものの、操作に慣れ、使えるソフトウェアやデジタル教科書が普及すれば、非常に魅力的なツールになります。例えば、授業中に子どもを惹きつける素材を提示しやすくなりますし、教科書に書かれていないが世の中で起きている重大な出来事をリアルタイムで取り上げ、子どもたちの理解や思考を深めることができます。また、紙で行っていた事務作業をデータ化して効率化を図ることで、子どもたちと向き合う時間を確保するなど、教師としての「本業」により多くの時間を割けるようになります。

課題は、地域や学校により活用実態にばらつきがあること

今のところ、1人1台端末の活用状況は地域や学校によって差がみられます。さらに、同じ学校内でも学年や先生によって活用実態が異なるのが実状です。活用度が比較的高いとされている自治体でも、日常的に使いこなしている学校は4割程度にとどまるという話も聞きます。全体的に、熱心に活用する学校や先生はますます活用し、消極的な学校や先生は使い方が分からず、メリットを感じないためますます使わなくなるという悪循環が懸念されています。そうした状況を改善することが今後の課題です。一部の地域では、ICT活用が得意な人材を教育委員会が組織化して各学校に配置するなど、事態改善に向けた動きが見られます。

家庭では子どもが自己管理できるようにサポートを

メディアの使い過ぎによる視力低下などを気にしている保護者は多いと思いますが、今後は、端末を学校から持ち帰って家庭学習でも使う動きが進むことが予想されます。家庭での子どものメディア利用について、いま一度考える良い機会ではないでしょうか。

大切なことは、メディアを使い過ぎないことはもちろん、子どもがメディアを自ら正しく使う力を身につけさせることです。自分に課すルールは、自分が理解し納得しないと守れないものです。例えば利用時間を制限する際も、保護者が一方的に設定するのではなく、親子で話し合って決めましょう。

家庭でできるもう一つの支援として、情報を適切に使いこなす力をつけることが挙げられます。目の前の情報をうのみにせず、その情報は正しいのか?偏っていないか?と一歩踏み留まって考える習慣をつけることがとても大切です。情報の出どころや発言者を尋ねるなど、家庭での普段の会話を通して自然にその力を高めることができるとよいですね。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年2月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

小村 俊平こむら しゅんぺい


ベネッセ教育総合研究所
教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。
活動実績一覧
他に岡山大学 学長特別補佐(教育担当)、日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

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