2026.3.20
デジタル教科書とは?メリット・デメリットや本格導入の詳細を解説
パソコンやタブレット端末で紙の教科書と同じ内容を閲覧できる、学習者用のデジタル教科書(以下、デジタル教科書)の利用が広がっています。まず小・中学校の英語で、デジタル教科書が紙の教科書と同じ扱いで併用され、様々な教科で使われるようになってきています。デジタル教科書が普及することで学校教育はどのように変わるのでしょうか。
デジタル教科書とは?
デジタル教科書は、紙の教科書をデジタル化したもので、パソコンやタブレット端末で使用します。各教科書会社は、教科書の内容に合わせたデジタル教材も用意しており、授業ではデジタル教科書とデジタル教材を併用して学習を進められるようになりました。
2024年度からは、小学5年生から中学3年生の英語で、デジタル教科書が「主たる教材」として、紙の教科書と同等の位置づけで使うことが可能になりました。 その後、希望する学校については算数・数学などでも導入が進んでいます。背景にあるのは、GIGAスクール構想です。1人1台の学習用端末が整備されたことで、デジタル教科書を実際の授業で活用できる環境が整ったと言えるでしょう。
デジタル教科書の機能は?
デジタル教科書やデジタル教材には、主に次のような機能があります。
出典:文部科学省「学習者用デジタル教科書実践事例集」より
英語で先行導入された理由は、朗読や動画・アニメーション、ドリルやワークシートの機能などが、英語の力を伸ばす上で不可欠な、聞く・読む・話すなどの技能を高める上で有効な場面が多いからです。すでに学校現場のニーズに対し、一定の成果があると考えられます。
デジタル教科書のメリット、デメリットは?
・メリットは「主体的に深く学べる」可能性が広がること
デジタル教科書を導入する最大のメリットは、直接書き込んだり編集したりといったデジタル機能の活用や、動画やドリルなどのデジタル教材と一緒に使うことにより、学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」の実践が深まることです。
また、特別な配慮が必要な子どもたちが学びやすくなる点も大きなメリットです。このほか、今後デジタル教科書の使用が主になれば、デジタル化による印刷コストの削減や、小中学校でおおむね4年ごとに行われている教科書の改訂サイクルの見直しも可能になるかもしれません。
ただし、紙の教科書がなくなるわけではありません。文部科学省では、紙とデジタル教科書・教材を一緒に使う方法の研究や、効果を測る検証を進めており、両方をうまく活用しながら、学習効果を最大にすることが目指されています。
・デジタル教科書のデメリットや課題は?
もちろん課題もあります。まず学校現場の通信環境です。授業中に端末やシステムが止まると授業が成立しなくなるため、安定したネットワーク環境が不可欠です。また、教員のICTスキルや、デジタル教材を活用した授業づくりの力も求められます。家庭で利用する場合には、各家庭の通信環境や費用負担も課題になります。さらに、デジタルツールの長時間使用による健康面への配慮も必要でしょう。
そして忘れてはいけないのが、紙の教科書の強みです。紙は一覧性に優れています。ページを行き来しながら全体を把握することができます。また、本という形で情報に触れる経験は、子どもたちが読書に親しむきっかけにもなります。このような紙のよさは、デジタルだけでは補いきれない部分もあります。
デジタル教科書の活用事例
デジタル教科書の特性を活用することで、子どもの学習理解度が高まる授業の例をご紹介します。いずれも、デジタル教科書の活用ありきではなく、紙の教科書も使いながら、学習内容に最も適した使い方と指導方法を組み合わせることが重要です。
・小学校 算数 台形の面積の求め方
台形の面積を求める授業では、デジタル教科書の図形の切り貼りなどができるデジタルコンテンツを活用します。
それまでに習った図形の面積の求め方を使いながら、デジタル教科書上で、図形を動かすなど試行錯誤しながら面積の求め方を考えます。単に公式を暗記するよりも、図形の性質や求め方の深い理解につながりやすくなります。
その際に、思考のプロセスを書き込んだ内容を友達に説明したり、別の解き方をした友達の考えを聞いたりといったことも可能です。紙の教科書を使用していたときよりも速く、多くの友達の考えに触れることができるため、解決の過程や結果を多面的に捉え考える力が育まれます。
・中学校 国語 説明文の読解
説明的な文章を学ぶ際は、本文を序論・本論・結論に分けたり、意見と根拠の対応関係を文中から探したりします。そこで特定箇所の色を変えたり、強調したりできる機能を使って自分の考えたことを教科書に書き込みます。
デジタル教科書は書いた内容を何度でも修正できるため、失敗を恐れずに試行錯誤しながら書き込んでいくことができるのです。次に、本文抜き出しツールを使って、文章の結論部分にある筆者の主張やそれを裏付ける箇所を色分けして囲み、抜き出します。
自分の考えが見えやすくなるとともに、それらの内容をタブレット画面で相手に見せたり、学習支援ソフトを活用したりすることで、友達と考えを共有しやすくなります。それらによって、学習のねらいである、文章の構成や論理の展開を整理し理解することがより簡単になるでしょう。
紙かデジタルかという議論を超えて
デジタル教科書の話になると、よく「紙の教科書はもう必要ないのではないか」という声を耳にします。しかし私は、この問いの立て方自体が違うと考えています。
紙の教科書には、紙ならではの良さがあります。ページをぱっと見渡せる一覧性、書き込みながら考える感覚、何度も読み返す中で理解が深まる体験。これはデジタルでは代替できない部分です。
一方で、デジタル教科書には、音声や動画、共有機能など、紙にはない可能性があります。英語の発音をその場で確認したり、図形を動かして考えたり、友達の考えを瞬時に共有したりすることもできます。つまり、紙かデジタルかという二者択一の話ではありません。
大切なのは、両方の良さを生かすことです。紙を残しながら、デジタルを活用する。それぞれの強みを組み合わせていく。学校の学びは、そうした「共存」の発想の中で進んでいくべきだと思います。
「学びの選択肢を広げる」という発想
学校教育で本当に大切なのは、子どもたちの学びを豊かにすることです。 子どもによって、学びやすい方法は違います。紙の方が理解しやすい子もいれば、動画や音声がある方が理解しやすい子もいます。書き込みながら考える子もいれば、画面上で試行錯誤する方が合う子もいます。
学び方の選択肢は多い方がいい。デジタル教科書の本当の価値は、紙を置き換えることではなく、子どもたちの学び方の選択肢を広げることにあるのだと思います。 デジタルか紙か。その議論をするよりも、子どもがよりよく学べる環境は何か。その視点でデジタル教科書を積極的に活用していくことが、これからの学校には求められているのではないでしょうか。
※掲載されている内容は2026年3月時点の情報です。
監修者
庄子寛之しょうじひろゆき
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主席研究員