デジタル教科書とは?メリット・デメリットや本格導入の詳細を解説 デジタル教科書とは?メリット・デメリットや本格導入の詳細を解説

2023.5.25

デジタル教科書とは?メリット・デメリットや本格導入の詳細を解説

改訂版の新しい教科書の使用が予定されている2024年度から、学習者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)が本格導入される見通しです。まず小中学校の英語で、デジタル教科書が紙の教科書と同じ扱いで併用されます。その後も算数、数学への導入を検討し、段階的に導入を拡大していく考えです。デジタル教科書で学校教育はどのように変わるのでしょうか。

英語で先行導入!デジタル教科書とは?

デジタル教科書は、紙の教科書をデジタル化したもので、パソコンやタブレット端末で使用します。各教科書会社は、教科書の内容に合わせたデジタル教材も用意しており、授業ではデジタル教科書とデジタル教材を併用して授業が進められます。

2023年度中までは授業改善や、特別な配慮を必要とする児童生徒への対応などのために、一定の基準のもとで紙の教科書の代わりに利用できるようになっていました。
2024年度からは、小学5年生から中学3年生の英語で、デジタル教科書が「主たる教材」として、紙の教科書と同等の位置づけで使うことが可能になります。 その後、算数・数学での導入が検討されており、数年かけて段階的に他教科にも導入される予定です。国の「GIGA(ギガ)スクール構想」でタブレットなど学習用の情報端末が1人1台配布されたことが、デジタル教科書の本格導入を後押しした形です。

デジタル教科書の機能は?

デジタル教科書やデジタル教材には、主に次のような機能があります。

デジタル教科書・デジタル教材の主な機能

出典:文部科学省「学習者用デジタル教科書実践事例集」より

今回、英語で先行導入される理由は、朗読や動画・アニメーション、ドリルやワークシートの機能などが、聞く・読む・話すなどの技能を高めたり、単語や文の学習ができたりするなど、活用が期待できる場面が多いからです。

実はすでに2023年度から全ての小中学校で英語のデジタル教科書を使用できるようになっており、学校現場のニーズや学習効果について一定の成果があるとされています。

デジタル教科書のメリット、デメリットは?

デジタル教科書のメリット・デメリット

・メリットは「主体的に深く学べる」こと
デジタル教科書を導入する最大のメリットは、直接書き込んだり編集したりといったデジタル機能の活用や、動画やドリルなどのデジタル教材と一緒に使うことにより新しい学習指導要領で目指す「主体的・対話的で深い学び」の実践が深まることです。

また、特別な配慮が必要な子どもたちが学びやすくなる点も大きなメリットです。このほか、今後デジタル教科書の使用が主になれば、デジタル化による印刷コストの削減や、小中学校でおおむね4年ごとに行われている教科書の改訂サイクルの見直しも可能になるかもしれません。

ただし、紙の教科書がなくなるわけではありません。文部科学省では、紙とデジタル教科書・教材を一緒に使う方法の研究や、効果を測る検証を進めており、両方をうまく活用しながら、学習効果を最大にすることが目指されています。

・デジタル教科書のデメリットや課題は?
デジタル教科書を使うデメリットや課題もあります。例えば、学校現場の通信環境です。授業中にシステムや端末がフリーズしたときの対処など、安定的なネットワークの整備や教員のICTスキルのさらなる向上が必要です。他にも、デジタル教科書を活用した指導スキルの向上や、家庭で利用できるよう各家庭のネットワーク環境の整備と費用負担、デジタルツールによる子どもの健康面への影響にも配慮が必要です。

さらに、紙の教科書には、一覧性に優れている、書籍に慣れ親しむきっかけとなるといった特性があり、デジタル教科書では補うことが難しい面もあります。今後の普及促進に向けては、法整備や予算措置の拡充も不可欠です。

デジタル教科書の活用事例

デジタル教科書の活用事例

デジタル教科書の特性を活用することで、子どもの学習理解度が高まる授業の例をご紹介します。いずれも、デジタル教科書の活用ありきではなく、紙の教科書も使いながら、学習内容に最も適した使い方と指導方法を組み合わせることが重要です。

・小学校 算数 台形の面積の求め方
台形の面積を求める授業では、デジタル教科書の図形の切り貼りなどができるデジタルコンテンツを活用します。
それまでに習った図形の面積の求め方を使いながら、デジタル教科書上で、図形を動かすなど試行錯誤しながら面積の求め方を考えます。単に公式を暗記するよりも、図形の性質や求め方の深い理解につながりやすくなります。
その際に、思考のプロセスを書き込んだ内容を友達に説明したり、別の解き方をした友達の考えを聞いたりといったことも可能です。紙の教科書を使用していたときよりも速く、多くの友達の考えに触れることができるため、解決の過程や結果を多面的に捉え考える力が育まれます。

・中学校 国語 説明文の読解
説明的な文章を学ぶ際は、本文を序論・本論・結論に分けたり、意見と根拠の対応関係を文中から探したりします。そこで特定箇所の色を変えたり、強調したりできる機能を使って自分の考えたことを教科書に書き込みます。

デジタル教科書は書いた内容を何度でも修正できるため、失敗を恐れずに試行錯誤しながら書き込んでいくことができるのです。次に、本文抜き出しツールを使って、文章の結論部分にある筆者の主張やそれを裏付ける箇所を色分けして囲み、抜き出します。

自分の考えが見えやすくなるとともに、それらの内容をタブレット画面で相手に見せたり、学習支援ソフトを活用したりすることで、友達と考えを共有しやすくなります。それらによって、学習のねらいである、文章の構成や論理の展開を整理し理解することがより簡単になるでしょう。

デジタル教科書の今後

デジタル教科書は当面、紙の教科書の内容がそのままデジタル化され、教師の指導の下で一斉に同じ使い方をする形が主流になるでしょう。
しかし今後、デジタル教科書はもはや「読む」だけのものではなく「使いこなす」ものとなり、「教師が学習内容を教える」だけでなく「子どもが自ら情報を探して使って学ぶ」ツールとなりえます。
授業でデジタル教科書を使う場面・内容は、子どもの理解度や興味関心に応じて変えられ、教科書の位置づけや使われ方が子どもたち一人ひとりに合ったものにできるかもしれません。そして、授業での教師と子どものかかわり方も変化し、新しいまなびの形ができるでしょう。デジタル教科書の普及は、学校での学びのありかたを大きく変える可能性を持っているのです。

取材・執筆:神田有希子

※掲載されている内容は2023年5月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

あらい けんいち


(株)ベネッセコーポレーション顧問

(株)ベネッセコーポレーション執行役員/教育研究開発本部長兼教育研究開発センター(現 ベネッセ教育総合研究所)長、ベネッセ教育総合研究所理事長を経て、現在、(株)ベネッセコーポレーション顧問。これまで、中央教育審議会分科会専門委員、文部科学省「デジタル教科書の位置づけに関する検討会議」委員、「デジタル教科書教材協議会」理事などを歴任。日本STEM教育学会会長、パナソニック教育財団理事、日本教育工学協会理事等。

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