教育用語解説|発達障害 教育用語解説|発達障害

2023.4.12

「発達障害」とは?特徴や症状、教育現場の課題や保護者が取るべき対応とは

子どもの障害には、大きく分けて身体障害(肢体不自由)、知的障害、視聴覚障害、発達障害などがあります。これらのうち8割以上の症例を占めるのが発達障害です。国の調査結果*1によると、全国の公立小中学校の通常学級に通う子どもの約9%(1クラスに3名前後)に発達障害の可能性があり、そのうち約4割が授業中に丁寧な指導を受けられるような配慮・支援を受けていなかったそうです。発達障害の有無は外見からはわかりにくく、その症状や困りごとは十人十色です。そのため、子どもの特性や周囲の状況を踏まえたサポートがとても大切です。

発達障害とは

発達障害

発達障害とは、子どもの生まれつきの認知や行動の特徴によって、対人関係やコミュニケーション、行動や感情のコントロール、学業などに大きな困難を伴う状態のことです。「インフルエンザ」「結膜炎」といった特定の病名ではありません。具体的には、主な診断名として「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」の大きく3つを総称したものが発達障害と言われます。*2

生まれつき、つまり発達の早期から症状が見られ、経験などではなく遺伝子上の理由で発症することから、発達障害という名前が付けられました。言い換えると、親の養育・教育の仕方や成育環境のせいで発達障害になることはありません。

また、LDのみ、ADHDのみなど、単独で症状が見られることもある一方、LDとADHD両方の診断基準を満たすなど、複数の診断名が併存する場合があることも特徴の一つです。

以下では、大きく3つに分類されたそれぞれの概要をご説明します。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

代表的な症状として、他人の意図(ジェスチャーや言葉など)を理解することが困難、その場の雰囲気やマナーに応じた振る舞いができない、特定の行為・もの・場所や感覚などに対する強い執着(こだわり)を持つ、発達の水準に相応した友人・仲間をつくることができない、などが見られるのがASDの特徴です。

1943年にアメリカの精神科医レオ・カナーによる報告が初めとされ、約5割がIQ70以下で知的障害を伴っており、男児に多く、3歳までに発症が見られます。
自閉症の特徴はありつつ、言葉の発達や知的発達に遅れが見られない「アスペルガー症候群」を含め、多様な自閉症のタイプがあることから、それらを大きな連続帯(=スペクトラム)ととらえて「自閉症スペクトラム障害」と呼ばれています。

○自閉症スペクトラム障害(ASD)の判断基準
1.対人的な相互作用における質的な障害(あてはまる項目が2つ以上)
・目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、感情表現などを、読み取り理解するといった行動がきわめて困難
・発達の水準に相応した友人・仲間をつくることができない
・喜び、興味、成果を他人と共有することを自発的に求めない
・対人的あるいは情緒的相互性の欠如

2.意思伝達の質的障害(あてはまる項目が1つ以上)
・話し言葉の発達の遅れまたは完全な欠如(身振りや物まねのような代わりの意思伝達の仕方により補おうという努力を伴わない)
・十分会話のある者では、他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害
・特定または独特の言葉を繰り返し使う
・発達水準に相応した、変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性を伴った物まね遊びの欠如

3.限定的で繰り返し行われる行動、興味および活動(あてはまる項目が1つ以上)
・異常なほど1つまたはいくつかの興味にだけ熱中すること
・特定の、機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである
・繰り返し行われる不自然な運動
・物体の一部に持続的に熱中する

ADHD(注意欠如・多動性障害)

ADHDは、計画や目的を意識して行う脳の機能がうまく働かないことによって生じます。代表的な症状は、集中できない、または注意を向けることができずに、すぐ他のことに目が行ってしまうなどの「不注意」、しゃべりすぎて止まらない、座っていてもそわそわしているなどの「多動性」、突然動き出す、キレやすいなどの「衝動性」の3つです。「注意欠陥優位型」と「多動・衝動優位型」、それら両方の特性がある「混合型」の3つのタイプに分かれます。「注意欠陥優位型」は気が散りやすく、ワーキングメモリーという短期記憶の機能が低下していることがわかっており、「多動・衝動優位型」は行動制御が困難で落ち着きがない、片付けられない、忘れ物が多い、集中できないなどが主な特徴です。

男女比はおおよそ2対1の割合で男子が多く、主症状は思春期に軽快することが多いですが大人になるまで持続することもあります。チック、学習障害といった併存症を持つことが多く、反社会的、攻撃的、反抗的な行動を、何度も繰り返す「行為障害」など、ADHDによって本人が受ける過剰なストレスやトラウマから生じる二次障害に移行することもあります。

○ADHD(注意欠如・多動性障害)の判断基準
1.以下の注意欠陥の症状のうち6つ以上が少なくとも6か月以上続き、生活への適応に障害をきたしている。
<注意欠陥>/細かいことに注意が行かず、学校での学習や、仕事その他の活動において不注意なミスをおかす/さまざまな課題や遊びにおいて、注意を持続することが困難である/直接話しかけられた時に、聞いていないように見える/学校の宿題に関する指示を最後まで聞かず、そのためにやり遂げることができない/課題や活動を筋道を立てて行うことが苦手である/学校の学習や宿題を避ける、いやいや行う/課題や活動に必要なものをなくす(おもちゃ、宿題、鉛筆、本など)/外からの刺激で気が散りやすい/日常の活動の中で物忘れをしやすい

2.以下の多動・衝動性の症状のうち6つ以上が少なくとも6か月以上続き、生活への適応に障害をきたしている。
<多動>手足をそわそわと動かしたり、いすの上でもじもじしたりする/教室やその他の席に座っていることが求められる場で席を離れる/そうしたことが不適切な場で、走り回ったりよじ登ったりする/静かに遊んだり余暇活動に付いたりすることが困難である/じっとしていない、あるいはせかされているかのように動き回る/しゃべりすぎる
<衝動性>
質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう/順番を待つことが困難である/会話やゲームに割り込むなど、他人をさえぎったり、割り込んだりする

学習障害(LD)

LDとは、知的障害がないのに、言葉の読み書きや計算、図形理解など特定の領域が苦手な状態を指します。それ以外の理解力やコミュニケーションなどは問題ないことが多いです。本人もがんばって取り組んでいるのに思うようにできないため、自信をなくしたり、努力が足りないと誤解されてしまったりするケースも。LDのうち大多数を占めるのは、生まれつきの読み書きに困難を持つ「ディスレクシア(読み書き障害)」という障害です。ディスレクシアの中でも、音読が不得意、文字を正しく書けない、読み書きはできるが計算問題が極端に苦手、計算は得意で文章題を解くのが苦手など特性はさまざまです。

中枢神経系に何らかの機能障害があることが原因とされますが、国や研究者によって概念や分類が統一されていません。また、ADHDやアスペルガー症候群などとの併存障害が多く、個人差が大きい半面、医学的な診断法や治療法、心理的・教育的な訓練法がまだ確立していない状況です。

教育現場では個別に教育的配慮が基本。一部の症状には服薬も効果的

一般的に、発達障害というと自閉症(ASD)の症状を想起する人が多いのですが、ASD、ADHD、LDそれぞれの対応の仕方は共通する部分も違う部分もあり、文字通り千差万別です。例えば、「集中することができない」子どもに対して、教師の経験則による効果的な対応方法は1冊の一般読者向け書籍*3に書かれているだけで100通り以上もあります。それだけ万能な対応策があるわけではなく、状況に応じてケースバイケースの対応が必要なのです。

投薬などの医学的な対応については、ADHDの症状が強い場合は比較的効果の高い薬が開発されており、症状を抑えることが可能になってきました。ASDは心理的・教育的な対応が基本ですが、パニックになるなど情緒的に不安定な状態になった場合、症状を抑える薬を処方する場合があります。LDについては残念ながら医学的対応は難しく、不得意教科・科目は強要しない、絶対評価を心がける、課題に取り組む時間制限を緩くするといった教育的配慮によって対応することになります。

家庭向けのサポート情報が圧倒的に不足

子どもが1日のうち最も長い時間を過ごすのが家庭です。その分、さまざまな事態・状況を想定した対応やサポートを行う必要があります。アメリカでは1960年代ごろから知的障害や自閉症などの保護者を対象とした「ペアレントトレーニング」というサポートプログラムが開発され、利用可能な機会が数多く提供されています。しかし日本では、そうした網羅的で系統的なサポート方法を学べる機会が非常に限られています。これは早急に解決すべきとても重要な課題といえます。数は限られますが、書籍や各種活動団体などから適切な情報を得ることができます。発達障害の子どもを持つ保護者のかたはぜひそれらにアクセスしてみてください。

正しい知識と温かなまなざしを

近年、発達障害に関する社会的関心が高まり、メディアなどでも取り上げられるようになりました。しかし、発達障害があたかも1つの病名であるかのように紹介されたり、保護者の養育態度のせいで発症したといった誤った情報が発信されてしまったりしています。これを機会に、発達障害に対する正しい知識と障害を持つ子どもや家族への温かいまなざしを忘れずに持っていきたいものです。

取材・執筆:神田有希子

*1 文部科学省 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果 R4年12月発表

*2 発達障害の定義にはいくつかの考え方がありますが、発達障害に関して法的に定めた「発達障害者支援法」では、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされており、今回ご紹介した分類もこれに近いものです。

*3 榊原洋一著『最新図解 発達障害の子どもたちをサポートする本』(ナツメ社)。同書には、「おしゃべりをしない」「整理整頓できない」「物をなくす」「行動がスムーズに切り替えられない」など、発達障害の子どもに非常によく見られる症状について、親や教師の対応のヒントが多数紹介されています。

※掲載されている内容は2023年4月時点の情報です。

監修者

監修スペシャリスト

さかきはら よういち


CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問

著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)など。

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

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