すべての大人が子どものことを考える社会に

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2023年4月、新しい省庁「こども家庭庁」が発足します。設立準備室では、すべての就学前の子どもたちが健やかに育つよう、大人が共有すべき考え方を「指針」として出す予定です。その素案では、子どもと日ごろ関わる機会がない人も含めた、すべての大人を対象としています。なぜでしょうか。

この記事のポイント

子育てしにくい国

今の日本の子どもを巡る状況には、厳しいものがあります。少子化に歯止めは掛からず、貧困や児童虐待、いじめなどの課題も改善されていません。
内閣府が20~49歳の男女を対象に行った2020年度「少子化社会に関する国際意識調査」では、「子どもを生み育てやすい国だと思うか」の質問に対して「とてもそう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合は、スウェーデンが97.1%だったのに対し、日本は38.3%と、大きな開きがありました。日本では、多くの人が「子育てがしにくい国」と感じているわけです。

子どもの育ちを誰もが理解するために

こうした課題を解決するために、これまで各省庁が担ってきた子どもに関する政策を一本化しよう、というのが、こども家庭庁創設の考えです。幼稚園や保育所などの施設、家庭や地域が理解すべき子どもの育ちに関する考え方をまとめ、担う役割を「指針」として示すことにしています。
指針を検討する有識者会議の素案では、冒頭に「子どもと日常的には関わる機会がない人も含むすべての人と共有」することを掲げます。共有したい理念として(1)すべての子どもが一人ひとり個人として、その多様性が尊重され、差別されず、権利が保障されている(2)子どもの声(思いや願い)が聴かれ、受け止められ、主体性が大事にされている(3)すべての子どもが安心・安全に生きることができ、育ちの質が保障されている(4)子育てをする人が子どもの成長の喜びを実感でき、それを支える社会も子どもの成長を一緒に喜び合える……などを挙げています。

誰に何を共有するかを具体化

しかし理念を示すだけでは、子どもが育っていくイメージは持ちにくいものです。そこで、(1)妊娠期(2)乳児期(3)おおむね1歳~3歳(4)おおむね3歳~幼児期の終わりに分け、各時期の子どもにとって何があるといいかを具体的に示すことにしました。
たとえば、子どもが安心感を与えられる経験を繰り返すことで、安心の土台を得ることを「愛着形成」といいますが、その対象は保護者や養育者だけではなく、保育者や看護師、子どものケアに当たる専門職など、子どもと直接接する人も含まれるという正しい理解を広めたい、としています。

まとめ & 実践 TIPS

未来の担い手である子どもたちが健やかに育てば、社会全体の利益になります。それは、子どもと直接関わらない人の利益にもなることから、社会全体で意識を高めることは重要といえます。
意識が高まるには、実際に子育てしやすいルールやインフラ整備など、目に見える変化も必要です。2022年度内にまとまる指針が、子育てがしやすい環境づくりを後押しする本来の役割を果たすことが期待されています。

(筆者:長尾 康子)

※ 内閣官房 「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」に関する有識者懇談会
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_sodachi_yushiki/index.html

※ 内閣府 少子化社会に関する国際意識調査
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/kokusai_ishiki.html

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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