日本の好成績で注目度アップ! PISAの「数学的リテラシー」とは?家庭で伸ばすポイントも解説

  • 教育動向

世界的な学力調査「PISA」の最新結果から、日本の子どもの学力が世界トップレベルであることが話題になりました。今回注目したいのは、PISAで測る3つの分野のうち、日本が81の参加国・地域中5位となった「数学的リテラシー」です。
そもそも「数学的リテラシー」とは何でしょうか?「ふだん勉強している算数や数学と違うの?」「数学的リテラシーを伸ばすには?」など、お子さまの学力にとって国別の順位よりも大切なポイントをご紹介します。

この記事のポイント

PISAの実際の問題から見る、「数学的リテラシー」とは?

2023年12月に結果が発表されたPISAは、OECD(経済協力開発機構)によってほぼ3年おきに行われます。今回は「数学的リテラシー」という分野が重点的に調査されました。
まずは、今回の調査で実際に出された問題(2022年実施)を見てみましょう(*1)

図1 PISA2022 数学的リテラシー 実際の問題「三角形の模様」

問1 秋夫さんの模様の最初の四行で、青色の三角形が占める割合は何パーセントですか。
→4つの選択肢から答えの数値を1つ選んでチェック【日本の正答率77.4%】

問2 秋夫さんが模様に五行目を追加したとしたら、模様の五行全体に対する青色の三角形の割合は何パーセントになりますか。
→4つの選択肢から答えの数値を1つ選んでチェック【日本の正答率72.0%】

問3 秋夫さんはこの模様にさらに行を追加しようとしています。
秋夫さんはこの模様の中で青色の三角形が占める割合は常に50%未満であると主張しています。
・秋夫さんの主張は正しいですか。
→はい/いいえのどちらかにチェック
・理由を説明してください。
→答えをテキスト入力
【日本の正答率33.9%】

この問題は、問1、2で大きな三角形の中で青色の三角形が占める割合を答えさせます。
それを踏まえて問3では、青色の三角形が占める割合は常に50%以下かどうかを、理由とともに答えさせます。
問1、2の日本の正答率は7~8割でした。問3は大きな三角形と青色の三角形の関係を定式化(一般化)する力が求められる、数学的リテラシーの問題全体の中でも難しい問題です。

理由を文章で書くところまで完全に正答するのは高難度で、日本の正答率は3割程度でした。ちなみに答えは「はい(常に50%以下)」なのですが、その理由まで説明できるでしょうか?

出典:国立教育政策研究所「OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)~ 2022 年調査問題例~」
https://www.google.com/url?q=https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/02_example_1.pdf

この問題からもかるように、数学的リテラシーとは、計算力や公式を問題に当てはめて解くだけの力ではありません。日常に転がっている問題を数学の問題として捉え、数学の知識などを使って出した結果を解釈・評価するサイクル(図2の赤・オレンジ・黄色部分)を回す数学的思考力と、それを使って実際にある問題を解決する力のことです。

PISAでは、数学の中身(内容領域)を4つに整理しています。図2の青色のグラデーション部分にある、「数と量」「不確実性とデータ」「変化と関係」「空間と形」の4領域です。日常生活や仕事の中で、私たちが4つのうち全部またはいずれかを生かす場面はたくさんあります。
例えば、会社で相手に自分の考えを納得してもらう際は、具体的な数字を使って説明すると効果的です。これは数学の「不確実性とデータ」をメインに「数と量」「変化と関係」にかかわるスキルを活かしています。

高額当選を期待して買う宝くじは、何枚買うと元がとれる可能性が最も高いでしょうか?実は、平均的に見ると、買えば買うほど損が増えるのです。この結果も、「数と量」「不確実性とデータ」「変化と関係」を活用したもので、中学校レベルの数学で導き出せます。

さらに、職業別の観点からは、建築家、大工職人やインテリアデザイナーなどは「空間と形」の知識や考え方が常に必要とされる職業の1つと言えます。また、批判的思考力や創造性、自主性、粘り強さ、コミュニケーションといった、これからの時代にますます必要な「21世紀スキル」(図2の下部)を発揮したり高めたりする際も、数学的リテラシーが関係します。

図2 数学的リテラシー の定義

PISA 2022 Mathematics Framework from OECD (2023), PISA 2022 Assessment and Analytical Framework, PISA, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/dfe0bf9c-en.

「数学の学習は将来の所得を高める効果がある」調査結果も

AI時代は、「数学のセンスや知識は理系の人だけに必要」という考えは通用せず、すべての人に数学的リテラシーが必要とされる社会になっていきます。文系・理系関係なく、ものごとを説明したり新たな商品やサービスを開発したりするために、数字(デジタル)を使う場面が一段と増えるでしょう。また、21世紀スキルが必要になればなるほど、連動する形で数学的リテラシーが前提とされる機会も増えます。

さらに、理系出身者の方が文系出身者よりも年収が高いという調査結果(*2)や、文系・理系問わず、数学の学習は所得を高める効果があるという調査結果(*3)が報告されています。この傾向は国際的に見ても同じです。
数学的リテラシーを活用することでよりよい社会活動を行い、自分や相手にメリットをもたらすことができるのです。

日本の数学的リテラシーは高い!

今回のPISAで、日本の数学的リテラシーの順位は81の参加国・地域中5位、OECD加盟国の中では1位と好成績でした。

もう少し詳しく、スコア(点数)で見てみましょう。日本は536点。このスコアは統計的に工夫されていて、問題や参加国が異なっていても過去回のスコアと比較できるようになっています。今回、他の国々は前回よりもスコアが下がりましたが、日本は高いままでした。また、複数ある問題の中で、日本は難易度が低い問題を間違える割合が減り、その結果、全体的なスコアが少し上がりました。

PISAの結果から分かるとおり、いわば手堅く、土台のしっかりした数学教育を行っている点が日本の強みです。保護者のかたやお子様自身が、「学校や塾で数学ができない、成績が悪い、だから数学は苦手」と決めつけるのはもったいない限りです。世界的に見ると日本人の数学力はとても高いですから、「うちの子はここまでならできる」と前向きに捉え、自信を持っていただきたいと思います。

日本の数学的リテラシーの課題

テストの結果は良好でしたが、同時に行われた生徒へのアンケート調査で気がかりな点が見られました。日本の生徒は、数学を実生活のできごとと結びつけて学ぶ機会が少ないことが分かったのです。例えば、数学の授業中、先生が生徒に「日常生活で数学がどのように役立つかを示して見せた」ことが「全くない・ほとんどない」と答えた生徒の割合は半分近くもいました。また、日常生活と絡めた数学的思考力の指導育成を行っている度合いを数字で表すと、日本はOECDの37加盟国中36位。とても残念な結果です(*4)

数学的リテラシーの大切さを考えると、日本の数学教育は、これまでの土台を維持しつつもさらにアップデートしていかねばなりません。教科書や問題集に書かれた数学の問題を正確に解くことは大切です。しかし、もっと普遍的な知識として、数学的な見方や考え方を身に付けていく授業を増やす必要があるのではないでしょうか。

「早く正確に問題を解けないと受験に受からない。入試問題が変わらないと学校の授業も変わらない」という声があるのももっともです。しかし、その入試問題も、実は少しずつですが変化しています。東京のある超難関中高一貫校では、「今まで算数を学んできた中で、実生活において算数の考え方が活かされて感動したり、面白いと感じたできごとについて簡潔に説明しなさい。」という算数の問題がすでに2017年に出されています。

2027年の大学入学共通テストでは、初めて見る問題に対して設定を理解する読解力や方針を立てる力を問う問題が数学で出題される予定です。また、すでに入試自体をPISAと同じCBT(コンピュータで出題・解答を行う)方式で行う大学も見られるなど、入試の中身もやり方も、これからますます変わっていくことでしょう。

学校の授業にも変化が見られます。いくつかの高校では「総合的な学習の時間」の時間を使って、高校で教わる数学の範囲を超えた研究を生徒自らが行っています。たとえば、「新型コロナウイルスがどのように感染拡大していくのか?」「避難訓練でどのルートを使うと生徒全員が最も早く一斉下校できるか?」といったテーマを自分たちで考え、数理モデルを分析やシミュレーションをしたり、数学の「確率」の考え方を使って金融商品に関するオリジナルの価格決定モデルを作ったりしています。

家庭で数学的リテラシーを育むには?

ご家庭でも数学的リテラシーを育むことは可能です。
ポイントは、「身の回りのできごとを数学的に考えてみる機会を増やす」こと。料理を手伝ってもらうときに、塩分の濃さを数値で考えてみたり、野菜の断面を図形に見立ててみるのもよいでしょう。

また、車や電車や飛行機の速さを単位を置き換えて比べてみる、ゲームで勝つ確率を考えてみる、茶わん一杯の米粒の数を概算で出してみるなど、日常にひそむ数学の世界は無限大。数学的な概念とお子様自身の体験が結びつくような会話を心掛けてみましょう。具体的なことを楽しく考えて理解することで、高校、大学、社会人と数学的な抽象度が上がる場面に出合っても苦手意識が出にくくなるのではないでしょうか。

保護者のかたも、身近なことを数学的に捉えるきっかけを楽しみながらたくさん見つけて、ぜひお子様とシェアしてみてください。

(脚注)

*1 OECD「Try PISA 2022 Test Questions」
https://pisa2022-questions.oecd.org/platform/index.html?user=&unit=MAT/MA150-TriangularPattern&lang=jpn-JPN

*2 独立行政法人経済産業研究所「理系出身者と文系出身者の年収比較」
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/11j020.html

*3 京都大学経済研究所「報告:高校理科学習と所得」

*4 国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査PISA2022のポイント」
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2022/01_point_2.pdf

プロフィール

小村俊平

小村俊平 こむらしゅんぺい
ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長

1975年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。全国の自治体・学校とともに、次世代の学びの実践と研究を推進。全国の教員や中高生とのオンライン対話会を毎週開催しており、学校や家庭の学びの変化や先進事例に詳しい。
これまでにさまざまな自治体・大学・高専のアドバイザー、複数の学校設立に携わるなど初等中等教育から高等教育まで幅広く活動する。また、OECDシュライヒャー教育局長の書籍翻訳等の経験があり、国際的な教育動向にも詳しい。

活動実績一覧
他に岡山大学 学長特別補佐(教育担当)、日本STEM教育学会幹事、 日本教育情報化振興会理事、内閣府子ども・若者調査委員、信州WWLコンソーシアム座長、仙台第三高校スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員等を兼任。

プロフィール

加藤健太郎

加藤健太郎 かとうけんたろう
ベネッセ教育総合研究所 教育基礎研究室長/主席研究員

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)、ミネソタ大学大学院統計学科修士課程修了(統計学修士)、ミネソタ大学大学院教育心理学科博士課程修了(教育心理学博士)。ミネソタ大学在学中にEducational Testing Serviceでインターンを経験。
2009年(株)ベネッセコーポレーション入社後、種々のアセスメント商品の開発・運用に測定の専門家(サイコメトリシャン)として関わる。並行して教育測定に関する研究活動・学会活動(学術誌編集委員)や、大学非常勤(東京大学他)などの教育活動を行う。2022年より現職。

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