英語でも日本語でも必要な「コミュニケーション能力」を伸ばす声かけのコツ

目的や場面、状況などに応じて発揮できるコミュニケーション能力を伸ばす

2020年度から、小学校5,6年生で英語が教科になります。小学校3,4年生でも、現在小学校5,6年生で行われている「外国語活動」が始まります。今回の英語教育改革で重視されているのは「使える英語の力」を育成すること。「使える」とは知識としてテストで得点できるだけでなく、「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能を「実践的な場面で使える」ということです。実践的な場面で使えるとはどういうことなのでしょうか。またそういう英語コミュニケーション能力はどのように伸ばしていけばよいのでしょうか。
新しい小学校学習指導要領には、外国語科の目標のひとつとして、「コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、身近で簡単な事柄について聞いたり話したりするとともに音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり、語順を意識しながら書いたりして、自分の考えや気持ちなどを伝え合うことができる基礎的な力を養う」と記されています。
このように書くと少し難しいと感じられるかもしれませんが、例えば、簡単な例では、「Where are you from?」と質問された場合、目的は、「私がどこから来たのか」を相手に答えることだとしても、海外で外国人に聞かれた質問であれば「I’m from Japan」と答えるでしょうし、国内の地元で聞かれたら、自分の住んでいる具体的な住所を答えるのが適切であったりします。このような活動は、日本語では日常生活において無自覚のうちに行っていたりしますが、日本語でもうまくできない場合もありますので、国語の授業でも意識して指導されようとしています。目的や場面、状況などに応じて(そこにコミュニケーションの相手も含まれるでしょう)、何を考え、どう判断して、どのように表現するのが良いのかを考えながらコミュニケーションを行うことの積み重ねの中で、日本語でも英語でも、コミュニケーション能力を伸ばしていくことが求められているのです。

家庭で子どもの「コミュニケーション能力」を伸ばすヒント

日本語も英語もコミュニケーションを行うという意味では共通です。ですから、日本語でも英語でもコミュニケーション能力を高めていくことができます。ご家庭の中で、日本語での会話を通してコミュニケーション能力を伸ばしていく働きかけをしてみてはどうでしょうか。ここでは2つの事例をご紹介します。
1 その日にあった学校での出来事を聞いてあげてください。その際に、目的や場面、状況、相手を意識した聞き方をしてあげると良いでしょう。例えば、英語の時間に行った活動を聞くとしたら、お子さんに「何の単語を習ったの?」ではなく、「どういう活動だったの?」「誰と話したの?」「どんな言葉でお話ししたの?」「何を話したの?」などを具体的に聞いてあげると、目的や場面、状況、相手を思い浮かべながら話してくれるのではないでしょうか。その繰り返しによって、英語の時間には、それらをもっと意識して英語を使うようになるでしょう。

2 日常生活の中で、ちょっとした非日常的な出来事の中で会話をしてみましょう。その際も目的や場面、状況、相手などを意識させてみましょう。例えば、家族の誰かが風邪をひいて家で寝ているときに、その人に薬を持って行っていくよう頼むとします。お子さんは無言で運んだり、「お薬飲んでね」としか言わないかもしれません。その際、「まずは体の具合がどうか聞いてあげてね」「もしさっき部屋に運んだ食事をとらずにずっと寝込んでいるようなら、ご飯は食べられそうか聞いてあげて、お薬はご飯を少しでも食べてから飲むように言ってあげてね」と伝えてみるのはいかがでしょうか。このような会話がすでに当たり前に行われているご家庭もあるかとも思いますが、目的や場面、状況、相手を意識して、ことばを使うとはこのようなことです。まず、このような、ことばを使う機会を家庭の中で積極的に与えることもしてみていただきたいです。

ベネッセ教育総合研究所で実施した調査では、英語によるコミュニケーションを行うことに対する前向きな気持ちは育まれていることが分かっています。例えば、「英語で話している人の気持ちや考えを理解しようとする」は75.8%(「とても+まあそう」の%、以下同じ)、「わからない英語があっても続けて聞こうとする」は75.7%、「おたがいの気持ちや考えを伝え合おうとする」は68.3%などで高い数値が出ています。英語に限らず、日本語でも、ことばを通して相手と積極的にコミュニケーションを行おうとする姿勢を育むことが大切だと思います。

図 コミュニケーションに対する関心・意欲・態度
※「とてもそう」+「まあそう」の%
※「学校では英語の授業や活動はありますか」について、「ある」と回答した人のみ(対象小学5,6年生)

ベネッセ教育総合研究所「小学生の英語学習に関する調査」(2015/3)


2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。

プロフィール


加藤由美子

1987年(株)ベネッセコーポレーション入社。1997・98年Berlitz・Singapore学校責任者として駐在。帰国後はベネッセの英語教育事業開発を担当。
研究部門異動後は、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育の理論的枠組み)開発やARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)の立ち上げ、小中高校生の英語学習実態調査、中高の英語指導調査、英語力を上げた学校の研究などに携わる。2019年度からは言語教育研究にも携わる。文部科学省「国際バカロレアに関する国内推進体制の整備」事業審査委員(2021年)。

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