中学の部活、どう変わる? 新学習指導要領と中学校教育

中学校で2021年から完全実施される新学習指導要領の大きなポイントは「資質・能力の育成」です。これに関連して、中央教育審議会初等中等教育分科会では、「部活」が大きな話題となったといいます。
学習指導要領の改訂と部活には、どのような関連があるのでしょうか。
中学校部会の委員として新学習指導要領作成に携わり、教育改革全体の流れ・これからの道筋を詳細に解説した『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)の著者でもある奈須正裕先生にうかがいました。

「資質・能力」を育てるには、まず学校の「働き方改革」が必要

中学校の学習指導要領の改訂にあたって、中学校部会で議論となったのが、教員の「働き方」の問題です。

生徒の資質・能力を伸ばすには、生徒一人ひとりに考えさせ、活発な議論を促すような「主体的・対話的で深い学び」を実現する必要があります。そのような授業は、一方通行型の授業より準備に手間がかかります。ところが、日本の中学校の先生方は忙しすぎ、十分な授業準備や教材研究を行う時間がないという実態が明らかになっています。

OECD(経済協力開発機構)が2013年に行った「国際教員指導環境調査」(TALIS2013)では、日本の教員1週間当たりの勤務時間は参加国最長(日本53.9時間、参加国平均38.3時間)です。中でも課外活動の指導時間(日本7.7時間、参加国平均2.1時間)や事務業務(日本5.5時間、参加国平均2.9時間)の時間が目立って長くなっています。
ちなみに、海外でも青少年のスポーツや文化活動は盛んですが、その役割は地元のスポーツクラブなど地域社会が担うケースが多く、日本のように学校の先生が生徒の課外活動を指導するという形はあまり見られません。

日本の先生方の多くは非常に熱心で、休日を使ってでも授業を良いものにしたいと努力している方がたくさんおられます。にもかかわらず、部活の練習や試合の引率で授業研究の時間が取れない。そんな実態がこの調査から見えてきます。
顧問の監督責任がより厳しく問われるようになり、活動中はずっと生徒についていなければならなくなったことも、教員の過剰労働の一因となっています。

部活が地域社会の活性化につながる?

多くの中学生にとって、部活は勉強以上の関心事ですし、青少年期に好きなことに打ち込む経験には大きな教育的意義があります。部活の指導をしたいから中学の教師になったという先生もおられますし、部活の顧問になったことをきっかけにスポーツや芸術の指導法を学び始める方もいらっしゃいます。

しかし、部活をこのまま学校だけに任せておくのは無理があるのではないでしょうか。
中学校部会では、部活の主体を学校から地域社会へとゆるやかに移行させ、専門性のある指導者と学校が協力して指導に当たるべきではないか、といった議論が盛り上がりました。そうなれば、生徒も先生以外の多様な世代の大人と関わることができますし、部活が元気なシニア世代の活躍の場にもなるかもしれません。
部活を社会教育に移行し、そこを拠点に地域社会の活性化をはかるというのは、なかなか夢のある話なのではないでしょうか。地域ぐるみでスキージャンプを指導し、葛西紀明選手をはじめ、数多くのオリンピック選手を輩出している北海道下川町のような例もあります。
部活の場を学校から地域社会へと開くにあたっては、指導者や施設の地域格差や安全性の確保など、様々な問題が出てくることと思います。とはいえ、教員の職分の中心は学習指導であり、今回の学習指導要領改訂でその役割はますます重要性を増してきています。「部活は先生が指導して当然」という考え方は改める時期にきているといえるでしょう。

部活を通して実現できる「主体的・対話的で深い学び」

部活は、子どもたちが好きなことに打ち込む時間で、自分たちで計画を立てて進められます。中学校部会では、部活こそが「主体的・対話的で深い学び」の場となるのではないかという意見も出ました。

たとえば運動部でも、練習メニューや大会に向けたスケジュールについて皆で議論する「教室での部活」の日を定期的に設けてはどうか。
「試合に勝ちたい」「上達したい」といった目標があれば、それを実現するために様々なトレーニング法を調べ、適切な練習メニューを皆で相談して決め、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回しながら活動していく。科学的で民主的な問題解決の方法を、部活を通して学べるのです。こういった議論には顧問だけでなく、他教科の先生や地域のスポーツや芸術の専門家にも参加してもらい、助言を仰ぐのもよいと思います。そうすれば、部活の弊害として指摘されるしごきやいじめといった問題も起きにくくなるのではないでしょうか。

保護者の方の中にも、部活が中学時代のかけがえのない思い出となっているかたは多いことと思います。部活の新しいあり方とともに、お子さまが好きなことに思い切り打ち込む姿を応援していただければ幸いです。

プロフィール


奈須正裕

上智大学総合人間科学部教育学科教授。新学習指導要領の作成に携わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会などの委員として重要な役割を担う。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)など。

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