日本の教育はどう変わる?~「AI」の時代にふさわしい知性を磨こう!~

2020年に向けて改革が進む日本の教育。今後、日本の教育はどのように変わっていくのでしょうか?
今回は、「アクティブ・ラーニング」や教育改革に向けて保護者がやっておくべきことなどを、私立中高一貫校の学校長を務める石川一郎さんにうかがいました。

アクティブ・ラーニングとは正解のない問いに向き合うこと

アクティブ・ラーニングは現在、2020年に向けて行われる教育改革の話題と併せて、よく取り沙汰されています。私は1980年代のバブル景気の頃に教員になったわけですが、生徒さんたちに勉強を教えるなかで感じたさまざまな気づきや、あるいは「日本の教育はこのままでいいのか」という思いが、子どもが興味を持って自分で考える機会をつくり、それが生きていくためのスキルにつながるような教育への関心につながっていきました。それらがアクティブ・ラーニングに取り組むきっかけになったのです。

私はアメリカの教育現場もいろいろと研究してきたのですが、そこで着目したのが、「クリティカル・シンキング(批判的思考)」や「クリエイティブ・シンキング(創造的思考)」といった考え方です。それまでの日本の教育は、単純な知識やテストの解法パターンを教えることが中心で、論理的な考え方や表現の方法を教える機会がありませんでした。ここに深く考えさせられたわけです。

実際の授業を例にとると、理論的な思考とアクティブ・ラーニングの結びつきがわかりやすくなるかもしれません。たとえば、歴史の授業で「応仁の乱」について扱う場合、まず学ぶのは複雑な人間関係と何年にどんなことがあったのかという知識の部分だと思います。1467年に起きた戦いだということや、今の京都(山城国)で起きた戦いでかなり長い期間にわたって行われたといったことが知識の部分でしょう。

次に問われるのは「応仁の乱はなぜ起きたか」「応仁の乱はどういう内容か」という知識を組み合わせたり、あるいは要約したりして答える問題ですね。アメリカではここから一歩進んだ本質的な質問を生徒さんに投げかけます。たとえば「応仁の乱はどうやったら防げるか?」といった問いです。

これはある意味で究極の問いですよね。複雑な人間関係のなかで起きた応仁の乱のような長期的な争いは、実際の社会でも起きかねません。同じような争いが起こったときに「構造的にどこを変えれば争いが防げるのか?」というふうに「正解のない問い」の答えを考えていくことが、クリティカルでクリエイティブな思考なのです。

実際に社会に出ると正解のない課題というものは日々出てきますね。大人は日々、こうした正解のない課題に向き合っているわけですが、こうしたアクティブ・ラーニングに生徒さん1人ひとりが意欲をもって取り組むためには、さきほど説明したような「正解のない問い」が有効だと考えています。

正解のない課題に向き合うアクティブ・ラーニングの教育実践

私は現在、私立中高一貫校の学校長を務めているのですが、そこで「津波で陸地に乗り上げた船をどうするか」というテーマで、保存派と撤去派に分かれてディベート(討論)するという授業を行いました。

実際に津波の被害に遭った地域で問題になった議論なのですが、そこで生徒さんたちからは賛成、反対といろいろな意見が出ました。こういった難しいテーマの場合、従来の授業では双方が意見を出し合って、教員が「両方ともよい意見だね」とまとめてしまうことが多いわけです。でもそれではあまりに予定調和的で、生徒さんたちにとってはおもしろくありませんよね。そこで、教員が次の課題を投げかけます。「では双方で話し合って、船をどうするか結論を出しましょう」と。

大人でも解決が難しいテーマですが、生徒さんたちは真剣に話し合った結果、「小さい模型にして船を保存すればいい」という結論を出してくれました。実はこれ、小学校5年生で行った授業の話なんですよ。テーマを工夫すれば、小学校1年生でも有意義なアクティブ・ラーニングの授業は行えます。

実際に、小学校1年生に「小さい恐竜がティラノサウルスに食べられないようにするにはどうしたらいいか?」ということをテーマにした授業をしたことがあります。この授業では、まず小さな恐竜をプリントした画用紙を配りました。そして、そこに絵を描き足したり、別の紙で武器になりそうなものをつくって貼ったりして、生徒さんたちに自分の考えを表現してもらったんです。最初は自分で考え、次に友だちの絵を見たり相談したりして考えてもらい、授業の最後にそれぞれが描いた恐竜の絵を教室に貼り出しました。

小学校1年生のみなさんは、小さな恐竜にとがった部位をつけたり、毒をもたせたりと、一生懸命に考え、授業に取り組んでくれました。小学校でよく使う言葉に「目当て」や「見通し」というものがあります。しかし、「目当て」や「見通し」どおりに教員から結果を聞くより、いまあるものから先を見通して予想を立てるほうが、生徒さんたちはワクワクするんです。ワクワクする部分は大人もお子さんもそう変わりません。この授業をとおして、生徒さんたちは小さな恐竜が進化の過程でどのように身を守るための機能を獲得したのかを、先生からただ正解を聞いて覚えるのではなく、自分たちで考え学びました。

アクティブ・ラーニングのというのは、知識の積み重ねのなかから知的好奇心を引き出す手法なんですね。そのほうが生徒さんたちが興味をもって、楽しんで学べるのです。

「アクティブ・ラーニング」の最大の課題は教員のマインド

私の見るところ、いま日本で行われているアクティブ・ラーニングのほとんどがまだ不完全なものだと思っています。たとえば、最初に例に出した応仁の乱であれば、教科書のそのページを示して、生徒さんをいくつかのグループに分け「この争いについて自分たちで調べて、発表しなさい」という授業がいまの日本の学校で一般的に行われているアクティブ・ラーニングです。しかし、これでは「知識を覚える」「知識を要約する」という2つの段階で終わってしまいます。もちろん、自分で調べることで知識が身につきやすくなるかもしれませんが、アクティブ・ラーニングで一番大切なのは「クリティカル・シンキング」や「クリエイティブ・シンキング」の部分なのです。

日本ではまだ「クリティカル・シンキング」や「クリエイティブ・シンキング」まで授業を発展させている学校や教員はそれほど多くありません。さきほど言ったような「自分ならどうするか?」といった、クリティカル(批判的)な問いはお子さんたちにとっても、知的好奇心を刺激するおもしろいものです。こうした「正解のない問い」に対していろんな意見が出るからこそ、学び合いの効果が得られると私は考えています。

しばしば、「アクティブ・ラーニングで基礎的な学力は身につくのか」といった議論が聞かれるように思います。しかし、アクティブ・ラーニングとは、身につけた知識を論理的に展開させる学習なのです。つまり、知識がなければ論理的に考えることもできませんし、アイデアも出ません。人がその場で思いつくことは微々たるもので、思いつきを作り出すための知識の引出しをつくることも、やはり大切なのです。私は、「全体の3分の1ほどをアクティブ・ラーニングの時間にあてるのがよい」と考えています。たとえば1コマ50分のうち30分は教科書の本文から知識を学ぶ時間にし、残り20分程度をアクティブ・ラーニングにあてるといった具合です。「正解のない問い」を投げかけてディベート形式などの学習をしていくことで、覚えた知識に対する理解もより深まっていくでしょう。

あと、「アクティブ・ラーニングの評価をどうするのか」ということもよく話題になります。その点については、「ロジカル(論理的)かどうか」を測っていけばいいと思います。たとえば記述式の解答の評価のポイントは、5W1Hを意識しているか、因果関係をはっきりさせているか、理由の部分が客観的な意見かどうか、などです。決まった答えはありませんが、こうした軸に沿えばきちんと評価していけるのではないでしょうか。逆に、こうしたポイントで評価しますということを生徒さんたちに伝えていけば、論理的思考や論理的な文章の書き方を教えることにもつながると思います。

今の日本の教育現場で、なかなかアクティブ・ラーニングが浸透していかない最大の障壁は、実は先生方のマインド(精神性)の部分なのではないかと考えています。これまでの学校教育では正解を用意しておいて授業をまとめるのが代表的な授業のあり方でした。ですから、「正解のない問いを出して授業がまとまるのか」という不安は多くの先生が感じていると思います。私が学校長を務めた学校でも、最初は現場から不安の声もありました。

しかし実際に取り組んでみて、生徒さんたちが生き生きと学ぶ姿を目にすると、教員の方々も安心してアクティブ・ラーニングの授業ができるようになりました。まずは教員のマインドを変えていくことが必要だと、私は思っています。

教育の変革期だからこそ価値観を磨きたい

社会の構造的な変化に合わせて、教育制度も変革の時期を迎えています。その1つとして2020年の教育改革などがあるわけですが、そんな中だからこそ、保護者の方には「お子さんの将来に対する価値観をどこに求めるか」ということをよく考えていただきたいと考えています。

これまでの日本の学校教育では、お子さんたちは「言われたことをきちんとこなす」ということを求めることが多かったように考えています。しかしこうした教育で身につけたスキルは今後、急速に発達するとみられる「AI(人工知能)」に取って代わられるのではないかと私は危惧しています。もちろん高度な教育を受けるために、高校や大学を目標とした受験勉強に打ち込むのもよいと思います。しかし、もっとも大切なのは、お子さんのどんなところを伸ばしてあげるかを家庭の考えとしてしっかりもつことだと思うのです。

ご家庭では、お子さん自身が興味のあることを発見できるように、幅広い体験をさせてあげてください。自然とふれあいや博物館・科学館などでの学び、読書などがおすすめです。お子さんは家庭の外でさまざまな体験をしてきます。家に帰ってきて「今日はこんなことがあった」という話をよく聞いてあげてください。そうした話のなかにこそ将来へのヒントがあるはずです。このとき気をつけたいのは、ほかのお子さんと比較しないこと、「そんなくだらないこと」と大人の目線でお子さんの発想を否定してしまわないことの2つです。ぜひお子さんの言葉に対して、「そうなんだ」「それは楽しそうだね」と共感的に聞いてあげてください。

これからの時代で求められるのは、いままでの常識では「そんなくだらないこと」と思われていたような発想だと私は信じています。それこそ「AI」には絶対にできないことであって、「AI」にとってはバグと言えるような発想こそ、これからの社会を担う人材に求められるものではないでしょうか。特に中学校1年生の終わりころから中学校2年生にかけては、反抗期を迎えて難しい時期ではありますが、「あなたはなにが好きなの」「やってみたいことはある?」と問いかけ、対話を続けてください。そうしてお子さんと向き合うことが、お子さん自身が自分の進む方向を見つける土台になっていくはずです。

もちろん教育の現場でも努力が続けられていますが、いままでのように学校に任せきりでは済まない時代がやってくるでしょう。保護者の方もお子さんの個性やよいところをどうやって引き出すかを考えながら、サポートをがんばっていただきたいと思います。

プロフィール

石川一郎

石川一郎

「香里ヌヴェール学院」学院長。「アサンプション国際小・中・高等学校」教育監修顧問。1962年東京都生まれ。小学校4年生から私立学校に学ぶ。1985年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。母校である暁星国際学園を初めロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。前「かえつ有明中・高等学校」校長。2000年代初めからアクティブ・ラーニングを研究、実践している。著書に「2020年の大学入試問題」(講談社現代新書)、「2020年からの教師問題」(KKベストセラーズ/ベスト新書)がある。
香里ヌヴェール学院 中学校・高等学校http://www.seibo.ed.jp/nevers-hs/
アサンプション国際中学校高等学校https://www.assumption.ed.jp/jsh/index.html

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