自然科学専攻の先生に教われば生徒も理科好きに

子どもの学力を上げるには、優秀な先生に指導してもらうことが一番であることは、論をまちません。では、どんな先生が「優秀」なのでしょうか。理科に関して、井上敦・政策研究大学院大学専門職らがこのほど、分析結果をまとめました。「自然科学を専攻した教員」が教えた場合に中学2年生の成績がアップするというのですが、どういうことなのでしょうか。

特に低学力層に効果

分析に用いたのは、代表的な国際学力調査の一つであるTIMSS(国際教育到達度評価学会=IEA=の「国際数学・理科教育動向調査」)です。もう一つの代表であるPISA(経済協力開発機構=OECD=の「生徒の学習到達度調査」)が学んだ知識を社会で活用できる力を問うものであるのに対して、TIMSSは、学校で学んだ知識そのものを問うものです。また、もともと生徒の成績が高い国・私立は除外し、学区の学力差を考慮せずランダムに人事異動が行われる公立中学校に限って分析しました。

TIMSSでは、教員の専攻について「生物学」「物理学」「化学」「地学」「理科教育」「数学」「数学教育」「教育学」「その他」を挙げ、当てはまるものをすべて選んでもらっています。いわゆる物・化・生・地のいずれかを選択した教員は89.7%に上りましたが、分析に当たっては、「自然科学&理科教育専攻」(31.1%)、「自然科学&非理科教育専攻」(58.6%)、「非自然科学専攻(理科教育・教育学・その他から1つ以上)」(10.3%)に分けています。

すると、「非自然科学専攻」の教員よりも、「自然科学&理科教育専攻」や「自然科学&非理科教育専攻」の教員のほうが、TIMSSの理科で、生徒の得点が明らかに高くなることが統計的に確認されたといいます。特に低学力層の生徒で、その傾向が強く表れたというのですから、無視できません。

日常生活と関連付けることがカギ

ただ、自然科学を専攻したといっても、難しいことを詳しく知っているからというわけではなさそうです。
分析では、自然科学を専攻した教員は、そうでない教員に比べて、「生徒が理科で学んだことを日常生活に結びつける指導」を半数以上の授業で実施している割合が高いことがわかりました。つまり、学んだ知識を丸覚えさせたり、ただ丁寧に説明したりするのではなく、日常生活との関連で、知識が役に立ち、応用されているのかまで教えているからこそ、生徒の理解を深め、知識を定着させ、成績もアップさせている……というわけです。

日常生活との関連付けは、PISAの課題でもありますが、実は日本の学校教育でも重視してきたことです。全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の理科の問題は、まさにそうした力を問うものです。さらに次期学習指導要領(2020<平成32>年度の小学校から順次、全面実施)では、理科のみならず全教科で、日常生活や社会との関連を図ることを強調しています。

教科書どおりに通り一遍の知識を一方通行で教えているだけは、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)が求められる次期指導要領では、もはや幅広い資質・能力を身に付けさせることはできません。理科の先生にも、専攻をもとにした「主体的・対話的で深い学び」による指導力の向上を、ぜひ図ってもらいたいものです。

※自然科学を専攻した教員が中学生の理科の学力に与える影響について-日本の国際学力調査データを用いた分析-
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/17j052.pdf

※中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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