高校の新科目「公共」は教室から飛び出せ!

次期学習指導要領では、昨夏から選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを契機に、小・中学校からの体系的な主権者教育を求めています。それでも、実際に生徒が18歳に達する高校での学習が、主権者教育のカギを握ることは言うまでもありません。高校の指導要領は1年遅れの来年3月に告示される予定ですが、これに関連して日本学術会議は、主権者教育の要となる公民科の新科目「公共」について「政治学からの提言」をまとめました。

「リアルな対話」求めて

そもそも公民科の学習は、「リアルな政治との対話」(提言)が不可欠です。しかし戦後の日本では、保守・革新勢力の対立など歴史的な経緯から「教育の『政治的中立性』」が強調されるあまり、リアルな政治学習が敬遠されてきた面があるのも事実です。

そんなリアルな政治との距離を縮めることを余儀なくされたのが、18歳選挙権の実施でした。文部科学省と総務省が2015(平成27)年9月に共同で作成した生徒用副教材「私たちが拓(ひら)く日本の未来」とその教員用指導資料でも、政治的中立性に配慮しつつも、現実の課題を積極的に取り上げることをすすめています。
そうした状況も踏まえて、学術会議は、「『教室を越える<公共>』学習の促進」を打ち出しました。「生まれながらのネット世代」を、地元の公民館や図書館、駅前広場などに出させ、そこでの経験や、人との出会いによって得る知識と、教室で学ぶ知識を結び付けることで、ネットだけでは手に入らない「英知と賢慮」を生徒たちに得させよう……というのです。

また、放課後や休日に、地元の福祉施設や裁判所、議会、住民対象のイベント・講演会に参加するなどの「トライやるデイズ」(仮称)の導入も提案しています。

グローバル社会で主体的に生きる力を

提言の内容は、新科目「公共」の在り方と、大きな方向性は一致していると言えます。
昨年12月の中央教育審議会答申によると、共通必履修科目「公共」は、現代社会の諸課題を捉え、考察し、選択・判断するための概念や理念を習得し、自立した主体として国家・社会の形成に参画する力を育成する科目です。「政治的主体」「経済的主体」「法的主体」「様々な情報の発信・受信主体」となるために、題材として政治参加や職業選択、裁判制度と司法参加、情報モラルなどを取り上げ、話し合いなども取り入れながら、主体的に考察・構想する学習を行うとしています。

学術会議の提言では、グローバルな社会の中で「生きる」「考える」ための課題として、(1)グローバル化と国民国家の揺らぎが惹(ひ)き起こす政治的・社会的排除/包摂の問題(2)圧政・迫害・貧困・紛争に苦しむ地域・国家の「民主化」問題(3)地域から国際へと重層的に拡(ひろ)がる諸ガバナンス(統治)の担い手と実効性の問題(4)グローバリゼーションのなかでの地方再生(5)経済危機のなかの福祉国家(6)震災復興・減災と市民社会(7)日本におけるオポジション(野党・対抗勢力)の確立……を挙げています。

「トライやるデイズ」は、阪神・淡路大震災などを契機に兵庫県教育委員会が1998(平成10)年度から中学2年生を対象に実施し、全国の職場体験活動のモデルとなった「トライやる・ウィーク」を参考にしたものです。現実社会からリアルに学ぶ学習が、今の時代だからこそ求められていると言えます。

※日本学術会議「高等学校新設科目「公共」にむけて—政治学からの提言—」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t239-2.pdf

※中教審答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(2016年12月)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1380731.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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