保育は「量」だけでなく「質」こそ重要

保育所の待機児童対策が、依然として深刻な問題になっています。女性も男性も活躍できる社会のために、一刻も早い対策が求められていることは論をまちませんし、保育の負担軽減も求められます。今は「量」の確保に追われているのが現状であり、第一の優先課題にならざるを得ないことは、仕方ないのかもしれません。しかし、忘れてはいけないことがあります。保育は、子どもたちの健全な成長のためにあり、「質」こそ重要だということです。

「小規模保育所」を調査し効果検証

保育の質に関して、慶応義塾大学の藤澤啓子准教授と中室牧子准教授が先頃、独立行政法人経済産業研究所に論文を寄せました。中室准教授は、『「学力」の経済学』で注目された、気鋭の教育経済学者(教育経済学は教育学ではなく、経済学の一分野)です。

2015(平成27)年度からの「子ども・子育て支援新制度」では、「小規模保育所」が地域型保育事業の一つとして認可されることになりました。マンションの一室や空き家などを活用して、0~2歳児の子ども6~19人を受け入れます。定員20人以上の認可保育所よりも設置しやすいため、待機児童問題解消の一助となることが期待されています。

中室准教授らは、東京都内と神奈川県内にある6事業体の協力を得て、小規模保育所20園と中規模保育所7園を対象に、エビデンス(科学的証拠)に基づいた調査を行いました。すると、担当保育士の保育士歴の長さと、保育の質のよさが、乳幼児の発達によい影響を及ぼすことがわかったといいます。

とはいえ調査対象が限られていること、各園1クラスの観察にとどまっていることなどから、「小規模保育園の方が中規模園よりも保育の質が良いと結論を出すのは時期尚早」と慎重な姿勢を見せています。

何とも歯切れの悪いのは、学術的研究だから仕方がないのかもしれません。ただ、保育の「量」の問題ばかりに注目が集まるなか、「質」の問題に注目したことは、評価されるべきでしょう。

サービスとしてより「公共性」に注目を

論文でも指摘しているとおり、保育には、子どもの生活・発達への権利保障を行う「公共的な性格」と、サービスの一環として捉える「私事」の、2つの議論があります。これだけ待機児童問題が深刻化するなかでは、まず保育のサービスに対する保護者の期待・要求をどれだけ満たすかに注力せざるを得ません。しかし、保育サービスには、十分な保育ができない家庭を支援し、子どもの成長を社会が保障するという公共的性格があることを、忘れてはいけません。

論文でも紹介されているとおり、米国では保育に関する大規模調査が行われ、早期からの質の高い保育が、就学後の高い学力につながり、ひいては大人になってからの高い収入や、犯罪率の減少にも現れるという、社会的に大きな投資効果があるという研究が蓄積されています。

日本ではどうしても、旧来から子育ては家庭の責任であるという風潮が強く、近年では保育事業をサービスとして捉える傾向がますます強まっています。家庭をめぐる状況が困難を増すなか、改めて保育の「質」にも注目することが、もっと行われてよいのではないでしょうか。

※保育の「質」は子どもの発達に影響するのか—小規模保育園と中規模保育園の比較から—
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/17010007.html

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

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