答えを教えて「いじめ」になる場合も!? 定義の難しさ

いじめの問題は、各地で自殺事件が相次ぐなど、依然として大きな問題となっています。
いじめ防止対策推進法では、「対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」をいじめと定義し、いじめに遭っている子どもの立場に立って認知するよう求めていますが、学校現場には依然として戸惑いがあることも確かです。どのようなものを「いじめ」と認知すべきなのでしょうか。

「加害者」には「いじめ」という言葉を使わず指導する場合も

10月に行われた文部科学省の「いじめ防止対策協議会」では、いじめの定義の解釈について、具体的な事例をもとに検討しました。そこで示された事例を見てみましょう。

(1)AさんはBさんに「もっと友達と積極的に話した方がいいよ。」と助言をしたつもりだったが、対人関係に悩んでいたBさんは、その言葉で深く傷ついた。

(2)Aさんが算数の問題を一生懸命に考えていたところ、隣の席の算数が得意なBさんは、解き方と答えを教えてあげた。Aさんは、あと一息で正解にたどり着くところであり、答えを聴いた途端に泣き出してしまった。

これを読んで、どう思われたでしょう? 一見「こんなことを言われたぐらいで傷つくなんて……」と思ったかたも、少なくないのではないのでしょうか。

しかし、防止法では、あくまで被害者側が心身の苦痛を感じたものを「いじめ」としています。心身の苦痛を感じているかどうかは、外からはわかりにくいものです。当事者に聞いても、「いじめではない」と言い張るケースも少なくありません。ただ、(2)のケースでは、「泣き出し」たことで、苦痛を感じていると推察することは可能でしょう。

もちろん、いじめの加害者になった格好のBさんに、「それは、いじめだよ」と言って指導する必要はありません。事例でも、「Bさんはとても親切だもんね。これからもその気持ちを大切にしてね。ところで、今日、なぜAさんが泣いちゃったと思う?」といった対応例を示しています。

初期段階から注意深く、子どもを見守る

学校は、集団の中で、子どもを育てる場です。そこが勉強だけでなく、人間関係づくりも学ぶ、小さな社会であるからです。それだけに、発達途上の子ども同士には、トラブルがつきものです。そんなトラブルの中でも、初期段階からいじめを見逃さず、組織的に対応することが、防止法で求められています。

普段からクラス全体の人間関係を把握したうえで、一人ひとりの様子にも気を配り、ちょっとした変化もキャッチしながら、学習指導や生活指導を進めていくことは、昔から、どの先生にも求められていることです。ただ、いじめ問題がこれだけ深刻化し、子どもたちの背景も複雑になっているなかでは、今まで以上に注意深く子どもたちを見守る姿勢が必要になっているのかもしれません。

とりわけ(2)のようなケースは、次期学習指導要領の目玉であるアクティブ・ラーニング(AL)を実施する際に、現実の課題になってきます。逆に、話し合いや学び合いのなかで、良好な人間関係を育て、いじめの起きにくいクラスをつくり出す……という発想も必要でしょう。「学びに向かう力・人間性等」も含めた幅広い資質・能力を育てるというのが、次期指導要領の眼目なのですから。

※いじめの認知について(第5回いじめ防止対策協議会配布資料)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/124/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/10/26/1378716_001.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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