幼少期の学びの芽、小学校からの教科で花開く

幼稚園や保育所などの「幼児期の教育」が今、注目を集めています。政府が幼児教育の無償化を目指しているのも、幼児期の教育が、その後の学習や、社会に出た後までを大きく左右することがわかっているからです。中央教育審議会も、学習指導要領(幼稚園は教育要領)を改訂して、小中高のあらゆる教科学習などを系統付ける際に、必ず幼児期を含めるなど、より重視する方向性を打ち出しています。

質の高い幼児教育を受けた子どもは、たとえ家庭環境などが恵まれなくても、学校でよい成績を取り、大人になって多くの収入を得る可能性が高まることが、50年以上にわたって同じ子どもを追跡調査している米国の研究で、実証されています。

日本でも、ベネッセ教育総合研究所が、2012(平成24)年に年少児(3歳)だった子どもを毎年追いかけて、その時々にどのような力が育てば、その後の生活や学習につながるかを、明らかにしようとする調査を継続中です。現在、小学1年生までの調査結果が出ています。
分析に当たっては、幼児期に子どもが身に付ける力を「生活習慣」「学びに向かう力」「文字・数・思考」の三つにまとめています。「学びに向かう力」というのは、他の二つに比べてイメージしにくいかもしれませんが、好奇心・自己主張・協調性・自己抑制・がんばる力の五つから成り立つものと定義しています。三つの力はいずれも、小学校以降の学習の「芽」になるものだといえるでしょう。

  • 出典:ベネッセ教育総合研究所「第5回 幼児の生活アンケート」(2015<平成27>年)
  • http://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=4770

分析の結果、年少児までに身に付けた「生活習慣」が、年中児の「学びに向かう力」につながり、それが年長児の「文字・数・思考」の力を育てる……というメカニズムがわかってきたといいます。普通の子は、一足飛びに国語や算数の勉強ができるようになるのではなく、学習のための芽を育てていてこそ、小学校で勉強の花が咲くというわけです。

中教審も、次の指導要領を検討するなかで、国語・社会・算数・理科・生活・英語といった教科だけでなく、音楽や体育などの実技系教科、さらには道徳や「総合的な学習の時間」、学校行事など、すべての教育活動で、幼児期の学びを基盤に、学習を積み上げていこうと検討しています。

それだけではありません。次の指導要領では、教科などの在り方をバラバラに考えるのではなく、どの教科などにも共通する力(資質・能力)を整理しようとしています。具体的には、「個別の知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱を想定しており、3番目にちゃんと「学びに向かう力」が入っています。学びに向かう力は、高校や大学で必要とされる「主体性・多様性・協働性」の力にまでつながると考えられています。

幼少期には、幼少期に十分しておかなければならない「学び」があります。幼稚園などでは、ただ遊んでいるように見えても、実は、一生役に立つ大切な学習の芽を育んでいるのです。学習の花をたくさん開かせ、生きる幹を太くするためにも、そんな子どもの育ちを、ゆっくり、着実に促したいものです。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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