紙×デジタル×人の組み合わせがカギ? 効果を高める学習方法とは?

デジタル機器の発達に伴い、タブレットやパソコンで学習できる教材が数多く市販されるようになっています。ゲームやSNSの利用につながるのではないかと保護者から心配する声もありますが、活用の仕方次第では子どもの学習効果を高めると、メディアと教育のかかわりを研究している東京工業大学名誉教授の赤堀侃司氏は言います。どのような活用が効果的なのか、お話を伺いました。


デジタルと紙、それぞれの利点を活かした学習を

 好きなことや目標があって、それに向かって進む意欲があれば、自ら学べるかもしれませんが、思うような結果が得られなかったり、学習内容が難しくなったりすると、子どもは学習意欲を失いがちです。そうした場合、子どもの意欲のみに原因を見いだすのではなく、「自ら学習を続けられる」という観点で学習方法を見直してみてはいかがでしょうか。従来は紙の教材が中心でしたが、今ではデジタル教材も市販されています。その両方をうまく併用していくことが学習効果を高めると、赤堀氏は指摘します。

 

「デジタル教材の中でも、動画などのマルチメディア教材は、動画や音声で示すことで具体的にイメージでき、理解を深めやすく、学習の動機づけにも役立ちます。さらに、漢字や計算などのドリルタイプの学習も、デジタル教材が適しています。レベルに合った問題に取り組めて、正誤がすぐにわかりますから、自分のペースで進められます。画数の多い漢字でも、書き順を順番通りに示してくれるので理解しやすく、覚えやすいでしょう。一方、紙の教材は、長文読解や文章題の学習に適しています。下線を引いたり、もう一度読み返したりしやすいので、じっくり考えながら取り組めるからです。また、紙の教材の大きな特性は『実感性』です。えんぴつで書くことで、紙との間に摩擦が起き、それが脳を刺激するといわれています。書くことで脳が活性化し、知識の定着が高まるというメリットがあるのです」(赤堀氏)

 

それぞれのメディアの利点を最大限に活かして組み合わせることが、子どもの「わかった!」を生み、理解と定着を促します。そのようにして学ぶことが楽しいと感じるようになれば、子どもも自ら学習に取り組み続けるようになるでしょう。
「紙であれば勉強している、デジタル教材だと遊んでいるといった物の見方もあるようですが、デジタル教材そのものに価値があるのではなく、重要なのは使い方ではないでしょうか」(赤堀氏)

 

 

紙×デジタル×人による組み合わせが学習効果を生む

 学習効果を高めるという観点で、もう一つ大切な要素は「人とのかかわり」です。思うように得点が取れずにあきらめてしまいそうになったり、また、同じ学習を繰り返していると飽きてしまったりする場面がでてきます。そうした意欲やペースにムラができるときにサポートするのが「人」だと、赤堀氏は強調します。

 

「何か新しい刺激を与えて、意欲を高めようとすることには限界があります。もちろん、学習しないからと叱ったりすれば、子どもの意欲はますます失われてしまいます。そうではなく、学習をしようとしている目標や、学ぶための原点を思い出させるほうが、学習意欲を高めるためには効果的です。子どもがどのような思いを抱いているのかを知ったうえで、子どもの状況を見て、いつ、どのような内容の声をかければ効果的なのかを判断できるのは、『人』ならばこそではないでしょうか」(赤堀氏)

 

この「人」には、保護者、先生、友だち、第三者と、子どもの状態や場面によって適切な人があり、ふさわしい言葉があります。赤堀氏の研究によると、小学6年生に夏休みの1ヵ月、国語と算数のドリル学習をデジタル教材と紙の教材でそれぞれ行ってもらったところ、デジタル教材のほうがよい成績を収めました。デジタル教材に取り組んだ子どもに話を聞くと、「わからないことがあって親に質問すると、怒られるから聞かなくなった」、「デジタル教材なら間違えても怒られないし、何度でもやり直せるのがよかった」と答えたそうです。つまり、人とかかわればすべてがよいというわけではなく、声をかける内容や、かかわり方によっては、マイナスにもプラスにもなるのです。

 

学習の動機づけや内容の理解に効果的なデジタル教材、知識の定着や思考力の育成に適している紙の教材、そして、学習がうまく進まないときにサポートする人、これらをどうバランスよく組み合わせていくかが、学習効果を高めていくカギといえそうです。

 

 

プロフィール


赤堀侃司(あかほり・かんじ)

工学博士、東京工業大学名誉教授、日本教育情報化振興会会長、教育テスト研究センター理事。著書に、「授業の基礎としてのインストラクショナルデザイン(日本視聴覚教育協会)」、「解決思考で学校が変わる(ぎょうせい)」など、多数。

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