高校の特別支援教育 モデル校ではどんなことをしているの‐斎藤剛史‐

高校における特別支援教育を推進するため、文部科学省が高校への通級指導の導入の検討を開始したことは、当コーナーでも紹介しました。しかし高校の通級指導については、高校関係者の理解不足という以外にも大きな課題があるようです。それは、思春期特有の自尊感情や抵抗感から来る問題です。

一般の学級に在籍しながら、必要に応じて特別支援学級や別教室などで、障害に応じた支援を受ける通級指導は、小中学校では広く行われています。しかし、義務教育ではない高校では、通級指導の制度自体がないため、発達障害をはじめとする障害のある生徒への支援が不十分であることが大きな課題となっています。
ただ、高校にも小中学校と同様の通級指導を導入すればよいという単純な話でもないようです。たとえば、通級指導を受けている児童生徒は年々増加していますが、小学校が7万5,364人に対して、中学校では8,386人しかいません。これほど多くの子どもが中学生になったとたんに通級指導を必要としなくなるとは考えられず、通級指導を受けることに抵抗感が強くなることも原因の一つと見られます。このような思春期特有の自尊感情は、高校生になるとさらに強まります。つまり、高校における通級指導は、小中学校と同様の仕組みでは難しいということです。

では、どうすればよいのでしょうか。文科省は2014(平成26)年度から「高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業」を開始し、高校における通級指導などの具体化に向けた研究を進めています。ここでの取り組みを見てみましょう。

たとえば千葉県立佐原高校では、各高校で独自に設けることができる「学校設定教科・科目」の一環として「心理学」を設け、障害の有無に関係なく人間関係形成力やコミュニケーション力に関する指導を実施したうえで、対人関係スキルなどを学ぶ個別指導へとつなげることを計画しています。千葉県立幕張総合高校でも「心理学」や「自立活動(ライフスキルトレーニング)」などの選択科目を設けることにしています。
また、神奈川県立綾瀬西高校では、自由選択科目として基礎学力を身に付ける「リベラルベーシック」、社会的自立や社会性の獲得を図る「コミュニケーション」、生活能力の向上を図るための「ソーシャルスタディ」などを履修させることにしています。滋賀県立愛知高校では、7時限目に「ソーシャルスキルトレーニング」という科目を設け、対人関係能力などを指導する予定です。選択科目などの形で他の生徒と分かれるようにしたり、7時限目などの時間帯を利用したりして、生徒の自尊感情に配慮しているのが特徴です。

モデル校の取り組みはこれだけではありません。障害の有無にかかわらず同一の授業を受ける際に、どうすれば全員にとって「わかる授業」となるかの研究も行われています。結局、高校における特別支援教育で最も必要なことは、障害のあるなしに関係なく、すべての生徒が理解できる授業を教員一人ひとりがすることなのかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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