日本の先生、もう給料は高くない!?‐渡辺敦司‐
国の来年度予算をめぐる折衝では、これまでにもお伝えしてきましたように、公立小中学校の先生の数を増やすべきか減らすべきかどうかが焦点の一つになりました。しかし、その陰で、心配な問題も進行しています。先生の給料が、もはや国際的に見て高水準とはいえないというのです。
経済協力開発機構(OECD)がまとめた最新の「図表でみる教育2015年版(外部のPDFにリンク)」によると、たとえば公立中学校教員の法定賃金(2013<平成25>年)は、教職10年目以降で加盟国平均を超えるものの、最高で1.2倍にとどまります。しかも新任教員に限って見ると、0.9倍とむしろ低くなっています。日本の中学校の先生は「世界一忙しい」こと、その中でも高い成果を上げていることが、過去のOECD調査から明らかになっていましたが、そこまで尽くしても待遇面では必ずしも報われていない……というわけです。特に新任教員の給与が低いとなれば今後、優秀な人材が集まるのか心配になります。
注目すべきは、過去との比較です。経験15年目の先生の実質賃金は、2005(平成17)年を100とした時、13(同25)年は94と、6ポイント減っています。この間、地方自治体の財政悪化などにより、他の公務員と横並びで、教員給与も削減されました。もちろん英国やフランス、イタリア、韓国などでも賃金が下がっていますが、米国やドイツは上げていますし、「学力世界一」と評されるフィンランドもわずかですがプラスです。パリ本部からの中継で記者会見を行ったアンドレア・シュライヒャー教育・スキル局長は「一般的に日本の教員給与は高いと言われていたが、今はむしろ低い水準にある」と評しました。
2005(平成17)年ころの日本の状況といえば、国の財政が悪化するなかで「先生の給与は高すぎる。一般公務員に比べても優遇されている分を減らすべきだ」という主張が、財政当局などから起こっていました。結局、国の制度上は優遇分を減らすことはなかったのですが、地方の公務員給与全体が下がったため、結果的にメリットがあるとはいえない状況になってしまいました。
そして現在、財政当局の文教予算の削減圧力は、教員給与から、先生の数(教職員定数)に移っています。いずれにしても、「教育をよくするために、国の支出(教育投資)を増やそう」という話には、一向になっていません。
OECDも「財源が限られているのなら、一クラスの人数を減らすより、先生の質を上げるために投資すべきだ」(シュライヒャー局長)という見解を取っているのですが、少人数学級にも、教員の資質・能力向上にも投資しないというのでは、本当に教育がよくなるのかはおぼつきません。
国内では、いじめは大きな問題です。OECDも、少人数学級にすれば問題行動が減少するという国際的なデータは「全くない」(同)と断言し、その代表例として、むしろ日本の問題行動の低さを挙げています。しかし今回発表された結果からは、そんな日本の教育の強みが今後ますます薄れてしまうのではないか……と思わざるを得ません。