東大の推薦にみる入試改革の「公平性」‐渡辺敦司‐

東京大学が初めて実施する「推薦入試」の第1次選考結果が、12月1日に発表されます。推薦条件が高すぎたせいか、初回は募集100人程度に対して173人にとどまり、定員割れする学部もありましたが、12月19・20日の第2次選考、来年1月の大学入試センター試験を経て、一般入試(前期日程)の第1段階合格者発表と同じ2月10日に、最終合格者が発表されることになります。
この推薦入試は、既にお伝えしてきたように、単に東大が推薦の導入に踏み切ったということにとどまらず、国が現在進めようとしている「高大接続改革」の一環としての大学入学者選抜改革の先導的取り組みという側面を持っています。今回は「大学入試の公平性」という観点から、東大推薦入試の意義を考えてみましょう。

募集要項(外部のPDFにリンク)によると、推薦入試に出願できる生徒は、高校の学校長が「責任をもって推薦できる者」であることはもちろん、その人数は「男女各1人」で、男子校や女子校の場合は1人だけです。推薦要件には、学部によって科学オリンピックの成績優秀者などが指定されているのですが、そもそも一般入試で多くの卒業生を東大に送り出してきた高校などの生徒からは、そうした優秀者も続出しています。つまり、いわゆるエリート校ほど校内選考が厳しくなりますし、そもそも男子校・女子校は共学校に比べて不利です。「他の高校に比べて不公平だ」という声が出ても不思議はないでしょう。

しかし、それこそが東大の狙いだといっても過言ではありません。
改めて、募集要項を見てみましょう。そこには推薦入試のアドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)として、「学部学生の多様性を促進し、それによって学部教育の更なる活性化を図ることに主眼を置いて実施」する一方、「高等学校等の生徒の潜在的多様性を掘り起こす」としています。一見、不公平に思える入試でも、それが入学後の教育を活性化するため、さらには日本の高校の可能性を広げるという、まさに「高大接続」の観点から、実施しようというわけです。東大が学部教育の「多様性」を図らなければならない事情については、推薦入試の導入を発表した当時の記事で紹介しました。

入試の「公平性」に関しては、高大接続改革を提言した昨年12月の中央教育審議会答申でも言及されていました。そこでは、「1点刻み」の試験だけに依存した入試が「公平」だという社会観念を「断ち切らなければならない」とさえ言っています。
公平性の代わりとなるのが「公正性」です。答申では、「年齢、性別、国籍、文化、障害の有無、地域の違い、家庭環境等の多様な背景を持つ一人ひとりが、高等学校までに積み上げてきた多様な力を、多様な方法で『公正』に評価し選抜するという意識に立たなければならない」としています。

東大の推薦入試の定員は全学部合わせて100人程度で、約3,000人の募集人員に比べればわずかですから、一般入試で「公平性」も確保されているといえます。そのうえで「公平」ではない入試方法を導入することは、むしろ「公正性」のために必要だ……という積極的な意義が込められていると見ることができるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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