自己肯定感の低さ、「教育再生」の推進力にも

日本の高校生は、ほかの国の高校生に比べて「自己肯定感」が低いことが、国立青少年教育振興機構の高校生国際比較調査の結果から浮き彫りになっています。自分を「ダメな人間だ」と思っている日本の高校生は7割以上に上っており、次期学習指導要領の改訂でも、子どもたちの自己肯定感を高めることが大きな課題となっています。しかし、問題はそう単純ではないという指摘も一部にあります。

調査は、日本・米国・中国・韓国の高校生を対象に実施されました。さまざまな質問の中で、決定的な違いが表れているのが「自分はダメな人間だと思うことがある」という項目です。これに「そう思う」(「とてもそう思う」と「まあそう思う」の合計、以下同じ)と回答したのは、日本72.5%、米国45.1%、中国56.4%、韓国35.2%で、日本の高校生の割合が突出して高くなっています。「私は人並みの能力がある」「私は、勉強が得意な方だ」「自分の希望はいつか叶うと思う」という項目でも、「そう思う」の割合に大きな違いがあります。日本の高校生はほかの3か国と比べて、極端に自己肯定感が低いといえるでしょう。

同様の調査は毎年実施されており、これまでも日本の子どもの自己肯定感の低さが問題になっていました。そのため当時の下村博文文科相は、次期学習指導要領の改訂を中央教育審議会に諮問した中で、「自己肯定感や学習意欲、社会参画の意識等が国際的に見て低いこと」を日本の学校教育の課題として挙げています。また、道徳教育の充実をはじめとする安倍晋三内閣による「教育再生」の大きな目的の一つは、日本の子どもたちの自己肯定感を高めることだといってもよいでしょう。

一方、「日本の子どもは自己肯定感が低い」という見方に疑問を投げ掛ける向きもあります。日本人は自分に関する肯定的評価について控えめに答える傾向があり、それが調査結果の違いにつながっているという意見です。また、以前に当コーナーで紹介したように、日本の子どもの自己肯定感は他者の評価に左右されるのに対して、外国の子どもの自己肯定感は自己評価を根拠としており、同列に論じるには無理があるという指摘もあります。

いずれにしろ自己肯定感が低いのは、やはり問題と言わざるを得ません。また、日本の子どもの自己肯定感は、学校段階が上がるにつれて低下しているという指摘もあります。自己肯定感を高めるには、人からほめられること、達成感を体験することなどが大切です。もしかしたら学校段階が上がるにつれて、これらを得る機会が学校の授業の中で減っているのでしょうか。

学習指導要領の改訂や道徳教育の充実なども重要ですが、学校教育においては、達成感を得られる授業、よくわかる授業、楽しい授業などの地道な授業改善が、子どもたちの自己肯定感の向上のための一番の近道なのかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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