昆虫観察のススメ【後編】 ~昆虫との関わりで気を付けたいこと

子どもが昆虫と触れ合うのはよいことですが、「虫が苦手」という保護者のかたもいるでしょう。虫との関わり方について、「ファーブル昆虫館『虫の詩人の館』」館長の奥本大三郎先生に伺いました。



まずは虫との触れ合いを楽しむことを大切に

子どもが虫に興味を持つようにするためには、自然の中で遊ぶことがいちばんです。森林や川辺はもちろん、都市部にも緑が豊かな公園があり、たくさんの生き物が生息しています。子どもは動くものに興味を持ちやすいものです。昆虫観察を目的として出かけなくても、そこで散歩をしたり遊んだりしているうちに、子どもは昆虫の存在に気付くでしょう。大人よりずっと細部をよく見ています。虫に興味を持ったら、まずは触らせてみてください。子どもは捕まえたくて、触りたくてしかたないのです。捕まえた虫を「かわいそうだから逃がしてあげよう」というのは、伸び始めた好奇心をつぶしてしまいます。とりあえず持ち帰り、虫に遊び相手になってもらいましょう。

ファーブル昆虫館では、年十数回、初心者向けの昆虫採集会を開いています。そこでは、網の振り方や狙い方など、簡単なことは教えていますが、あとは実際に見たり捕まえたりして、まずは「楽しむ」ことを重視しています。

虫と遊ぶのが楽しくて面白くて、もっと知りたいと思うようになったら、やみくもに虫を捕ることを卒業し、捕ったあとに自分が何をしたいのか、目的がわかるようになります。観察記録をつける、飼う、標本にするといった目的に合わせてどうすればよいのか、どのような方法があるのか、本やインターネットで調べるとよいでしょう。

昆虫採集の専用道具がなくても、薬のケースや食品保存容器など、昆虫採集で活用できるグッズは100円ショップや量販店で簡単に手に入ります。インターネットで調べれば、捕りたいと思う虫の生息地もわかります。お子さまが興味を持った虫について、いろいろ調べてみたら、夏休みの自由研究にもなるでしょう。



虫が苦手でも、遠ざけないで

お子さまが虫嫌いであれば、もちろん、無理に虫と関わる必要はありません。ただ、自然の中になるべく出かけてみてはどうでしょうか。人は知らないものに恐怖感や嫌悪感を抱くものです。案外、知らないから嫌いだと思い込んでいるのかもしれません。

また、子どもの虫嫌いは、大人の影響もあると思います。大人が虫を見て、「キャー」と騒いだり、「汚い」と否定的な態度をとったりするために、子どもも「虫は怖いものだ」という感覚がすり込まれてしまうのです。

虫が苦手という保護者のかたがいると思いますが、子どもがせっかく捕まえてきた虫を「捨ててきなさい」と遠ざけてしまっては、子どもの好奇心をつぶしてしまいます。
ご自身は触らなくてもよいので、せめて昆虫採集を禁止しないでいただけたらと思います。

生理的に受け付けないというかたもいると思いますが、ファーブル昆虫館が開く昆虫採集会には、子どもが虫好きで参加される保護者のかたが大勢いらっしゃいます。初めのうちは「虫が苦手で……」と遠巻きに見ていても、子どもの熱意に負けて、採集会に何度か参加し、子どもが飼い始めた虫の世話をするうちに、だんだん慣れて、触れるようになっていくようです。

このような昆虫教室は、全国各地で開かれています。今や昆虫好きの子どもの数は少なく、小学校ではなかなか仲間を見つけられないようですから、このような会に参加して、子ども同士の仲間づくりを後押ししてみてはどうでしょうか。昆虫好きの子どもを持つ保護者が悩みを相談し合う場にもなっていますので、親子で参加するのがおすすめです。

『ファーブル昆虫記〈1〉 ふしぎなスカラベ』『ファーブル昆虫記〈1〉 ふしぎなスカラベ』
<ファーブル昆虫記〈1〉 ふしぎなスカラベ/奥本大三郎(著)/集英社/1728円=税込>

プロフィール


奥本大三郎

フランス文学者、埼玉大学名誉教授、作家。NPO法人日本アンリ・ファーブル会理事長。「ファーブル昆虫館『虫の詩人の館』」館長。著書に『完訳ファーブル昆虫記』(集英社)、『虫から始まる文明論』(集英社インターナショナル)ほか多数。

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