もっと楽になる!? 子どもとのコミュニケーション[やる気を引き出すコーチング]

コーチングを学ぶようになって半年、最近、すっかりお子さまとのコミュニケーションが楽になったというSさんのお話を今回はご紹介しましょう。

ある日、Sさんが、高校1年生の長男の部屋をのぞくと、ベッドの上にたくさんの洋服が広げられていました。「あれ? どうしてこんなに出しているんだろう?」。ちょっと不思議に思ったそうです。今までだったら、「もう! 何やっているの? 出しっぱなしにしないで早く片付けなさい!」と、キィーッ!となって叫んでいたそうですが、この時は、「あれ? どうしたんだろう?」と思って質問してみました。「洋服がたくさん出してあるけど、どうしたの? 何かあったの?」。お子さまから返ってきた答えは、Sさんがまったく想像していなかったものでした。



子どもの意図を聴いてみる

子:「ベッドの上に置いているだけ」
母:「だよね。ベッドで寝られないぐらい置いてあるね」
子:「だから、そういうこと」
母:「え? そういうことって?」
子:「ベッドで寝てしまわないように」
母:「え!?」
子:「勉強していて眠くなって、そこにベッドがあったら、すぐ寝てしまう。だから、勉強中は寝られないようにしてある」
母:「へぇー! なるほどねー!」

「子どもは、自分なりに考えて、自己管理して、勉強に取り組んでいるんだなあと思いました。夜寝る時は、洋服をベッドから床に降ろしていたみたいですけど。試験期間が終わったら、言わなくてもちゃんと元通りに片付けていましたよ。試験の結果もよかったみたいです。今までの私は、『散らかしている』と思ったら、もうそれだけで、キィーッ!となって、口うるさく言ってしまって、かえって、子どものやる気を奪っていたんだなと思いました。勝手に決めつけて怒鳴って、お互いに嫌な気分になっていました。そういうことがいっぱいあったと思います。今のほうがずっと楽ですねー。『以前の私とは違う!』と思えてうれしかったです」
と話してくれたSさんの爽やかな笑顔に、こちらもとても温かい気持ちになりました。

たしかに、子どもは子どもなりの考えや意図があって、やっていることもあるでしょう。その想いをくんでもらえず、表面的に見えていることだけを注意されると、たちまちやる気は失われてしまいます。「もう! 何をやっているの?」と思う時も、まず、
「どうしたの?」
「どうしようと思っているの?」
と意図を聴いてみると、案外、こちらが思ってもみなかった答えが引き出され、落ち着いて話せるかもしれません。



「信じる」気持ちがイライラをなくす

「ところで、Sさん、どうして最近は、キィーッ!ってならなくなったんですか?」
ここは聴かずにはいられないポイントですので、私はSさんに質問しました。

「そうですねー、多分、子どもを信じようと私が思うようになったからだと思います。『この子は自分でできる子だ! 自分なりに考えているはずだ! 何か理由があってやっているんだ』って、こっちがそういう目で見ているから、まず質問して聴いてみようって思えるし、イラッ!とすることもなくなったと思います。『この子は言わないとできない』って思っているから、あれこれ口を出して、よけいに悪化させていたんでしょうね」

この言葉には、コーチングの真髄が、実に端的に言い表されているように思います。「自分でできる子だ」とこちらが信じるから、
子どもをコントロールしようとしなくなる
→よけいなことを言わなくなる
→お互いにイライラしなくなる
→子どもも主体的に考えるようになる
→言われなくてもできるようになる
ということです。
それでも、「うちの子は無理!」と思ってしまいますか? 逆の立場だったらどうでしょう? 「大丈夫だよね。できるよね」と信じてもらえることがどんなにうれしく、やる気につながるか。信じれば信じる程、お子さまとのコミュニケーションはもっと楽になっていきますよ。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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