子ども同士のけんかにどう対応する?[やる気を引き出すコーチング]

たとえば、小学2年生と5年生の男の子を連れて、道を歩いていたとしましょう。子ども2人は楽しそうに話しながら歩いているので、こちらも特別気にせず、前を歩いていました。すると突然、後ろから、「ギャーッ!」という泣き声が聞こえてきました。びっくりして振り返ります。けんかでもしたのでしょうか。下の子のほうが大声を張り上げて泣き叫んでいます。上の子はばつが悪そうにしています。こんな道の真ん中でどうしよう? 早く帰らないといけないのに……。さあ、こんな時、どう対応しますか?



感情的に反応せず、「事実」を聴く

これは、先日、私が実際に出会った一場面です。あるフリースクールの小学生のクラスを1日見学させてもらった時の出来事です。外での学習を終え、学校に戻ろうという段になって、この事件は起きました。
私と一緒に前を歩いていたこの学校の先生は、コーチングを随所に取り入れて教育をされているかたです。どう対応するのだろう? 私はじっと見守りました。
よく見かける光景だと、
「なんで泣いているの? またけんかしたの?」
と、2人に対して質問ではなく詰問するパターン。
「ダメでしょう! お兄ちゃんなんだから小さい子を泣かしたら」
と、泣いていないほうを責めるパターン。
「こんな道の真ん中で泣かないで! 早く帰るよ」
と、泣いているほうに命令するパターン。
などが浮かんできますが、この先生の対応は、そのどれでもありませんでした。ややしばらく、2人をじっと見守り、様子をうかがいます。下の子が泣きやみ、落ち着くのを待ってから、ようやく声をかけました。その第一声はとても穏やかでした。
「何があったの?」
2人は黙ったままです。下の子のほうをA君、上の子のほうをB君としましょう。
「A君、何があったの? 今、見ていなかったから教えてほしい」
先生がもう一度聞きました。A君が答えました。
「B君が押した!」
「A君が先に押したから!」
と、負けじとB君も自己主張をします。
先生:「どちらが悪いとか良いとか言うつもりはないから、何があったかを教えてほしい。B君はA君が押したって言っているけどどうなの?」
A君:「話したいことがあったのに、B君が聞いてくれなかったから押した」
先生:「って、A君は言っているけど、B君はどうなの?」
B君:「自分が話しているのに、A君が割り込もうとした」
A君:「聞いてほしいことがあった」
先生:「そうだったんだ。今、話せる?」
A君:「うん」
先生:「ってA君は言っているけど、B君はどう? 聞ける?」
B君:「いいよ」
先生:「じゃあ、その時、言いたかったことを話して」
このあと、A君から出てきた言葉は、なんでそんなことでけんかになるの?というぐらい大人からするとたわいもない話でした。
先生:「っていうことをA君はB君に聞いてもらいたかったんだって」
B君:「わかった」
これにて一件落着!という場面でした。このあと、2人は、あれはいったい何だったの?というぐらい和やかな様子で学校まで戻りました。
大人が感情的に反応せず、まず「事実」をしっかり受けとめることで、子どもたちも、落ち着いて自分の気持ちをふりかえり、感情をおさめていくんだなと感じた場面でした。



大人が「ジャッジ」をしない

「泣かしたほうが悪い」「先に手を出したほうが悪い」と、けんかに関しても、大人が自分の価値観で判断(ジャッジ)を下しがちです。「あなたが悪い」と決めつけられると、「本当はこうだったのに」と腑(ふ)に落ちないモヤモヤが残ってしまいます。「悪い」と思われる行動をとった子どもにも、きっと、それなりの「理由」があるはずです。その気持ちにしっかり耳を傾け、受けとめ、「そんな気持ちがあったんだ」「そんな気持ちにさせてしまったんだ」ということをお互いに考えられたら、むやみに人のせいにしたり、自分を正当化したりしなくなるでしょう。
大人が裁判官にならず、事実を扱いながら子ども自身の考えを促すほうが、解決力や意欲を引き出すように思います。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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