不登校を解消した5つの質問[やる気を引き出すコーチング]

「小学3年生からずっと学校に行けないでいた子が学校に復帰しました。今では、普通に学校に行っています」という報告が届きました。この子は、何が原因なのかはよくわかりませんが、学校に行こうとしなくなり、既に中学2年生の年になっていました。中学校の入学式にすら出席していません。一度も中学校に行ったことがない子どもがどうして、急に行けるようになったのでしょうか。
その理由は、このうれしい報告をくださった適応指導教室のS先生の関わり方にあったのではないかと私は思っています。



「目標達成シート」を使った週に一度の面談

S先生は、ある時から毎週月曜日の朝、1時間程、この子と面談をするようになりました。ここ数年、熱心に学んできたコーチングの手法を駆使して、質問をしながら、子どもの言葉に耳を傾け、「それはあなたの強みだよ」と思ったことはどんどん伝えました。さらに、「目標達成シート」というものを作って、1週間の振り返りと今週の行動計画を宣言することを促したそうです。
初めは、「学校は怖い。高校にも進学しない」と言っていた子どもですが、面談を重ねるうちに、高校生活を楽しみに思えるようになり、学校に対する恐怖心もしだいになくなっていったそうです。この子にとって、S先生との面談時間は、自分の存在価値や強み、未来への希望を実感できる楽しいひとときだったのではないかと思います。



5つの質問

この「目標達成シート」は、次の5つの質問に答えるようになっています。

<1> 自分の理想の状態はどんな状態ですか?
<2> 山登りをイメージしてください。理想の状態が10合目(頂上)だとしたら、今は何合目ですか? その理由も考えてみましょう(できていること、できていないことなど)
<3> できていないところ(課題)を解決するために、どんなリソース(資源)が使えそうですか?
※リソース(資源)とは:自分の強み・情報・時間・道具・環境など
<4> <2>の課題の何からどのように始めますか?
<5> いつから始めますか? 宣言してみましょう。

これらの質問は、コーチングを行う際に、コーチが意識している<基本の流れ>に沿ったものですが、S先生は、子ども向けにアレンジして、「目標達成シート」にしました。
この子は、毎週、これらの答えを自分なりに考えて書き込みました。翌週には、「やってみてどうだったか?」を振り返りながら、その週の計画を立てました。S先生は決してあせることなく、この子のペースに合わせ、この子の気持ちを大切にしながら対話をしました。
数か月後、期末テストを学校に行って受けることができるまでになりました。学校行事にも参加することになり、ついに、学校に通い始めました。
学校に行くようになったこの子は、不登校だったころの自分を思い返して、「どうして学校に行きたくなかったのか今では不思議」とケロリとしているとのことです。



子どもの可能性を信じる関わり

S先生の報告はこう結ばれていました。「夢実現に向かって行動していると、こういうことが起こるんですね。コーチングを学んでよかったと心から思っています」。
「もし、この子がS先生に出会っていなかったら、S先生がコーチングに出会っていなかったら、どうなっていたのだろう?」と思うと、S先生に心から拍手を贈りたい気持ちと共に、私も自分の仕事に誇りを感じずにはいられません。
子どもが持っている可能性は本当にすばらしいです。どんなはずみで何が変わるかわかりません。「学校に行かなければならない」という強迫観念のような想いからではなく、「どうなりたいのか?」を見つめ続けた時に、自ずと答えがわいてきたのでしょう。「この子はもうダメだ」と安易に決めつけないで、私たち大人はその可能性を信じて、よきサポート役でありたいと思います。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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