多様化進む大学入試 「一般・推薦・AO」区分廃止でどうなる?-斎藤剛史-

安倍内閣による「教育再生」の一環として、大学入試の改革が進められています。中央教育審議会が示したスケジュールでは、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020(平成32)年度から、大学入試センター試験に代わる新テストが導入される予定です。しかし、新しい大学入試がどうなるのか、なかなかイメージができないのも実情でしょう。そこで中教審答申(外部のPDFにリンク)にある一つの言葉がヒントになるかもしれません。それは「一般入試、推薦入学、AO入試の区分を廃止」するというものです。

当コーナーでは大学入試改革をめぐって、単なる入試改革にとどまらず、高校教育・大学入試・大学教育の「三位一体」の改革であること、「1点刻み」の入試廃止が「公正・公平」とは何かという日本人の意識に大きな転換をもたらすものであることなど、大学入試改革の狙いを紹介してきました。しかし、それでもなかなかピンとこないというのが一般的な受け止め方でしょう。中教審答申を読むと、高校2・3年生で複数回実施する「高等学校基礎学力テスト(仮称)」で基礎的学力を測定し、センター試験に代わる年複数回実施の「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で思考力・判断力・表現力などを評価したうえで、大学ごとの個別入試では面接・論文などの多様な方法で主体性・多様性・協働性などを評価するという3段階で構想されていることがわかります。
ところが現在の一般入試は、1月中旬に大学入試センター試験、それから私立大学入試、さらに国公立大学入試と続き、各大学の入学試験から合格発表までの期間は1週間程度しかありません。この日程で、中教審答申が提言するような入試を行うことはほぼ不可能でしょう。これが、おそらく多くの人々が今回の大学入試改革が本当に可能なのか疑問に感じる大きな理由になっています。

しかし、その解答は実は中教審答申の中にきちんと書いてあります。一般的にはあまり注目されていませんが、中教審答申は、大学入試の新たなルールを構築する観点から、現行の「一般入試、推薦入試、AO入試の区分を廃止」と明記しています。つまり、これからの大学入試は、試験から1週間程度で合格発表するようなものではなく、選抜にある程度の時間をかけてじっくりと合格者を選んでいく方式、つまり大学入試全体がある種の「AO入試」となっていくということを意味していると思われます。
文部科学省の調査によると、2014(平成26)年度の大学入学者に占める一般入試による入学者は国公私立全体で56.6%、私立のみだと49.6%、推薦・AO入試入学者の割合は全体で43.0%、私立のみだと50.0%などとなっています。もはや一般入試が大学入試の主流であるとは言い切れないのです。そう考えると、一般入試・推薦入試・AO入試という区分を廃止していくことは、案外、難しいことではないかもしれません。

いずれにしろ、現在の小学6年生が大学受験を迎える2020(平成32)年度には、大学入試のイメージは大きく変わっているのではないでしょうか。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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