「牛乳なし」から考える学校給食の在り方-渡辺敦司-

冬休みも終わり、お子さんのお昼ごはんを考えなくて済んで、正直なところほっとしている……という保護者のかたも少なくないのではないでしょうか。そんな多くの学校で実施されている学校給食について、新潟県三条市で2014(平成26)年12月から始まった試みが注目を集めています。牛乳の提供を3月までの4か月間、試験的に停止しているからです。ご自分の学校時代の体験から、給食に牛乳があるのは当たり前と思っている保護者のかたも多いことでしょう。そもそも、なぜ給食に牛乳なのでしょうか。

現在のように学校給食が本格的に始まったのは1947(昭和22)年、戦後の食糧難に対して米国から送られた「ララ物資」と呼ばれる民間の救援物資に、脱脂粉乳(牛乳の乳脂肪分を除いて粉末にしたもの)があったことがきっかけでした。1949(昭和24)年からは国連児童基金(ユニセフ)からミルクの寄贈を受けています。このように学校給食の始まり自体が西洋風であり、子どもの成長に欠かせない牛乳はその主要な食材だったのです。パンに合うということも定着の要因でしょう。完全給食(主食と副食を提供)が全国的に普及するまでは、牛乳だけを提供する「ミルク給食」も一般的でした。今も完全給食の実施率(外部のPDFにリンク)が小学校より低い中学校では、ミルク給食を続けている自治体もあります。

一方、米飯給食の正式な導入は1976(昭和51)年からと、戦後30年あまり経ってからでした。1985(昭和60)年からは国産米の消費を拡大するため積極的に米飯給食が奨励され、今では完全給食を実施する学校でほぼ100%、米飯給食が実施されています。それでもカルシウムが豊富な牛乳の役割は疑われることなく、学校給食の風景の中にすっかり定着しています。

それに一石を投じたのが、米どころ新潟県の三条市です。もともと主食として米飯を毎日提供し、副食も和食の献立が中心だったため、かねて「ごはんと牛乳の組み合わせは合わない」という声が上がっていたといいます。2014(平成26)年4月からの消費税増税による給食費の値上げ回避も、提供を取りやめるきっかけになったといいます。
しかし、学校給食を実施する場合は、文部科学省が定める学校給食摂取基準を満たす必要があり、牛乳の代わりが必要です。三条市では、小魚やごまを使ったふりかけ、みそ汁の煮干し粉、週1~2回のヨーグルトなどでカルシウムを補うことにしています。

学校給食は現在、食育の一環に位置付けられています。単なる市民サービスではなく、それ自体が教育です。そもそも学校教育は地域や学校の創意工夫を生かして行われるもので、とりわけ給食は地産地消などの流れの中で近年、郷土色豊かなメニューなど創意工夫が行われています。ユネスコ無形文化遺産への登録で一汁三菜を基本とする「和食」への関心も高まっています。一方で材料費高騰の折、コストを安く抑えることも、献立を考える学校栄養士の悩みどころであり、牛乳が強い味方であることも確かです。

学校給食は、まさに学校・家庭・地域が共に関心を寄せる課題です。改めて学校給食の在り方を、関係者ぐるみで考えてみてはいかがでしょうか。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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