学校では今 【第19回】子どもとの距離を縮める「掃除」の力-小泉和義-

今回は、「保護者と中学生とのコミュニケーション」と「掃除」との関係について述べたいと思います。中学生は、今も昔も多感な世代であることに変わりありません。自分を大人として認めてほしいと思う一方で、頼れる大人や先輩も求めています。家庭での親子のコミュニケーションもぎくしゃくしてしまうことがあり、子どもとの距離をどう取ればよいのか悩んでいらっしゃるかたも多いのではないかと思います。そんな中学生の子どもとうまくコミュニケーションを取る方法として、「掃除」をおすすめしたいと思います。



掃除をすすめる3つの理由

中学校では、生徒の生活態度が乱れてきたり、学力が全体的に低下してきたりしたとき、掃除指導を徹底的に行う場合が多くあります。その理由は3つあります。

1つめは、成績の良い生徒もそうでない生徒も、掃除はみんな平等に取り組めるからです。成績によって差が出てしまう活動だと、結局学力の高い生徒ばかりが目立ってしまいます。

2つめは、結果や成果が、生徒自身にもすぐに見えるからです。汚れていた場所を自分が一生懸命掃除をすることで、見違えるようにきれいにできる。そして、それが自分自身の成果であることをその場でリアルタイムに実感できるのです。「勉強」ではそうはいきません。自分自身の努力が報われ、成績が上がるまでには、かなりの時間が必要です。

3つめは、自分だけでなく、誰かのためにがんばることの価値を実感できるからです。きれいにした場所は、自分だけが使うわけではなくほかの人も使う場所です。周囲から「きれいになったね。ありがとう」とほめられ、感謝されると、人の役に立ったことを実感できます。そうした言葉が自己肯定感を高め、結果として生徒の自信につながっていくのです。



中学生の我が子をほめるチャンス

また、福井県のある中学校では「無言清掃」という活動を毎日行っています。掃除の時間になると、生徒全員が班ごとに持ち場につき、一斉に黙々と掃除を始めます。そして掃除の時間が終わると、班ごとに集まりその日の掃除の反省を行います。私はこの光景を見て少し驚きましたが、生徒はこれが日常になっていて、特別なことをしている意識はないようでした。校長先生にお話を伺うと、無言清掃の取り組みは上記3つの理由とは別に、生徒自身の気持ちを落ち着かせることができ、人の話を素直に聞く姿勢や態度を育てることにもつながっているのだそうです。

「掃除なんて面倒くさいよ」。ご家庭で、お子さまに掃除をさせようとしたら、恐らくそんな反応が返ってくるのではないでしょうか。それでも、何らかの理由を作り「階段をピカピカにして」「換気扇をピカピカにして」など、あえて大変な掃除を任せてみてください。初めはいやいやながらかもしれませんが、うまく励ましてください。そして、掃除が終わってピカピカになったら、思いっきりほめてあげましょう。保護者の皆さんも中学生のお子さまを思いっきりほめることなんて、あまりないのではないですか? 言葉は少ないかもしれませんが、難しい年頃の中学生と、きっとうまくコミュニケーションが取れると思います。試してみてください。


プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

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