時間がない! 5秒でもできるコーチング [やる気を引き出すコーチング]

「質問をして、子どもが自分で考えるよう促す! それが大事なのはわかるのですが、そんな時間がとれないんです。どうしたらいいですか?」。
コーチングをお伝えするなかで、必ず出てくるご質問です。たしかに、コーチングでは、質問して、相手が考えて話すのを聴いて、自ら気付くまで待つというプロセスに時間を要します。「こうしなさい」と言ったほうが断然早そうです。
しかしそうすると、いつまでたっても、言わなければ動かない、自分では考えない、決められない子どもになってしまいます。長い目で見た時に、質問をして考えを促すというのは、「生きる力」を育む関わりだと私は思っています。
さて、忙しい日常の中で、何か良い方法はないものでしょうか?



答えを求めない質問

コーチング講座に通ってくださっているSさんの事例をご紹介します。
先日、「質問のスキル」を学んだばかりのSさんは、小学生のお子さまにちょっと質問を試してみたいと思いました。今、一番気になっていることは、朝、部屋を片付けないまま、学校に行ってしまうこと。これまでずっと、「片付けてから行きなさいよ!」と言っていました。質問に変えるとしたらどうなるんだろう?と考えた末、「どこから片付けるの?」と声をかけることにしました。
しかし、質問はしてみたものの、朝の忙しい時間です。答えを待っている余裕などありません。「まあ、しょうがないか」と放っておいたのですが、その日、少し片付けをして行ったそうです。翌日も、「今日はどこから片付ける?」と質問。答えを待っている余裕はありません。なので、質問はこれ一つだけ。質問しっぱなしです。それでも、「片付けなさい」と言っていた時よりも、何かしら、自分で考えて片付けているようです。「この前、子ども部屋に入ってみたら、何も言っていないのに、ものすごくきれいになっていて感動しました!」とSさんが話してくれました。
質問されると、人の意識は質問されたことに向かい始めます。「何からやる?」と言われると、「ええと、何だっけ?」と多少なりとも意識が向かいます。答えが返ってくることは求めず、ただ質問を投げかけておく。折々に投げかけ続ける。それだけでも、「~しなさい」と言うよりはずっと、自分で考える習慣がつくのではないでしょうか。



I(アイ)メッセージは考えを促す

相手が自分で考え、自ら動くよう促すうえで、「質問」は効果的ですが、別に、質問にこだわる必要もありません。「私は、……と感じたよ」と、自分の気持ちを伝えるI(アイ)メッセージは質問形ではありませんが、相手の考えを促すのに非常に効果的です。
たとえば、先ほどのSさんのお子さんの事例を使わせていただくと、こんな伝え方ができそうです。
片付いていない状態に対して、
「あなたが散らかしたまま学校に行くと、何か忘れ物をしていないか、その日一日心配なんだよね」。
片付いていたら、
「とても気持ちいいね! きれいになって感動したよ。私も気分が明るくなった」。
やると言いながら、やっていない時は、
「いつもやっているのに、今日はどうしたのかなと思って、ちょっと悲しくなったよ」。

気持ちで伝えられると、言われたほうは、思わず考えてしまいます。自分の行動が相手をそんな気持ちにさせたんだという影響に気付きます。そこから、「じゃあ、もっとこうしよう」とか「どうしたらいいのかな?」という視点が生まれます。これも、立派なコーチングです。

時間がないことですべてをあきらめるのではなく、一言の声かけから続けてみてください。たった一言でも、お子さんの考える力や自発性を引き出すことが可能です。5秒でできることがたくさんあるはずです。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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