遊びの中で培われる体力が低下 二極化も深刻に‐斎藤剛史‐

文部科学省の2013(平成25)年度「体力・運動能力調査」(新体力テスト)の結果、子どもたちの体力・運動能力はピーク時の1985(昭和60)年度には及ばないものの、一部の種目を除いて少しずつ向上していることがわかりました。しかし、「ボール投げ」は前回の東京五輪開催当時の50年前よりも低下しているなど大きな課題も浮き彫りになりました。子どもたちにどんな問題が起きているのでしょうか。

調査は2013(平成25)年5~10月(小中高校生は5~7月)に、全国の6~79歳の男女約7万4,000人を対象に実施され、うち約6万4,000人から調査票を回収しました。このうち小中高校生の各種目の成績を点数化して見てみると、2013(平成25)年度は13歳男子が過去16年間のうちで2位、16歳男子が3位、11歳女子が2位、13歳女子が4位などとなっており、文科省は子どもの体力・運動能力は「緩やかに向上している」と説明しています。また、今年は前回の東京五輪から50周年に当たることから、50年前の1964(昭和39)年度、25年前の89(平成元)年度、そして2013(同25)年度の順で10歳の子どもたちの記録を比較しています。結果は次のようになっています。



反復横跳びは一貫して向上、50m走や握力も25年前の1989(平成元)年度に及ばないものの、50年前の64(昭和39)年度より上回っています。しかし、女子はさほどではないものの、男子のボール投げ(ソフトボール)は50年前よりも約6mも下回るなど大きく低下しています。これは11歳男女にも共通しています。「投げる」という動作は、単なる筋力だけでなく、体全体の動きをコントロールする高度な技術が必要な動きで、ボール遊びやキャッチボールなど、幼児期からの遊びの中で培われる運動能力と言われています。同様に50年前と比較して低下しているのは、13歳女子と16歳女子の握力、16歳男女のボール投げ(ハンドボール)などで、やはりボール投げの記録低下のほか、男女をとおした最近の握力の低下傾向が気になります。
全体的に見ると、子どもの体力・運動能力では、ボール投げと握力に課題があると言えるでしょう。握力も木にぶら下がるなど日常の遊びの中で鍛えられるものです。運動やスポーツなどで子どもの体力・運動能力は、緩やかに上昇しているものの、遊びや日常生活の中で鍛えられる種類の体力・運動能力は低下、または伸び悩んでいると言えそうです。また、16歳男子の持久走も近年上昇傾向にあるものの、依然として50年前の水準を下回っています。

さらに、体力・運動能力の高い子どもと低い子どもの二極化現象が大きくなっていることも最近の大きな特徴です。学力の二極化が話題となっていますが、体力面でもよく運動する子どもとまったく運動しない子どもに分かれつつあるようです。幼児期から子ども同士で積極的に外で遊ぶ機会をつくることが、今後、ますます重要になってきそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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