「もう一つのオリンピック」メダルラッシュ 国際科学五輪って何?‐斎藤剛史‐

スポーツの秋ですが、それとは別に「知のオリンピック」と呼ばれる大会があるのをご存じでしょうか。「国際科学オリンピック」と総称される科学の国際大会で、主に高校生を対象としており、日本では7分野の国際大会に高校生たちを送り出しています。
現在、日本が参加している国際科学五輪は、数学・生物・化学・物理・地理・地学・情報の7分野の大会です。それぞれ歴史は異なりますが、主に高校生を対象にして国別チームで参加することが共通しています。高校生を対象としているのは、科学的才能のある子どもを見つけ出し、その才能を伸ばすチャンスを与えるということが趣旨になっているからです。

国際科学五輪に出場する代表者は、日本数学五輪や化学グランプリといったそれぞれの国内大会の成績上位者から候補に選ばれ、強化合宿などを経て、正式に決定されます。最も参加人数が多い化学グランプリでは、2013(平成25)年に3,481人の高校生が集まり、最終的に4人が代表に選抜され国際化学五輪に参加しました。
国際科学五輪では、分野ごとに多少方法が異なりますが、おおよそ「記述問題」と実技の「実験問題」の二つを各5時間程度行います。問題はそれぞれの国の言葉に翻訳され出題されます。単なる知識を問うものではなく、分析力・読解力、思考力、表現力を競う内容となっています。またこの大会では問題を解くばかりではなく、各分野の権威による講演会、セミナー、交流会などもあり、国際的な経験を積むことも狙いの一つです。今年の国際化学五輪では、75か国・地域から291名の高校生が参加し、日本は金メダル1名、銀メダル2名、銅メダル1名を獲得しました。ほかの大会でも参加者のほとんどがメダルを獲得するなど、日本はメダルラッシュが続いています。

個性や能力を重視した大学入試への転換が議論されているなかで、科学五輪は推薦入試やAO入試の対象としても注目を集めつつあります。
たとえば、全国から「スーパー高校生」を集めるため東京大学が2016(平成28)年度入試から始める推薦入試でも、理系学部や経済学部ではそれぞれの分野の国際・国内の科学五輪の成績優秀者が対象の一つとなっています。また、東北大学や大阪大学なども、国内大会の成績上位者や国際大会の参加者などを対象にした推薦入試やAO入試を実施しています。
有力大学は大学間の国際競争に勝つため、ペーパーテストによる入試ではわからない才能や能力のある子どもたちを集めようとしています。しかし、日本の学校教育の中ではなかなか卓越した才能や能力を発見し、伸ばせないのが実情です。大学関係者などが科学五輪に注目する背景には、このような日本の学校教育が抱える問題もあると言えるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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