子どもをほめてばかりでよいのでしょうか?[やる気を引き出すコーチング]

保護者のかた向けの講演会で、また、この質問がありました。意外とよくいただく質問です。
「子どものよいところを見て、伝えていくことの大切さはわかるのですが、ほめてばかりで本当に大丈夫なのかなと思うことがあります。大きくなるにつれて、きっと厳しく接する人もたくさん出てくると思います。ずっとほめられて育った子どもは、打たれ弱くなってしまうんじゃないか、ある程度、世間の厳しさに慣れさせておいたほうがいいんじゃないかと思うことがあるのですが、どうなんでしょうか?」
さて、皆さんはどう思われますか?



子どもをほめてばかりでよいのでしょうか?[やる気を引き出すコーチング]


打たれ強さの源は「自己肯定感」

私は、いつもこんなふうにお答えしています。
「自己肯定感で満たされている人は、逆境にあってもけっこう強いです。厳しさを悲観的にとらえることはあまりないです。本当の打たれ強さとは、厳しい試練にひたすら耐えられることではなく、直面した課題に対して、『自分なら乗り越えられる』という気持ちとそれを解決していく力を持っていることだと思います。『ここを乗り越えるにはどうしたらよいだろう?』と前向きに考えられる力は、『自分にはできるはずだ』という自己肯定感から生まれます。厳しく接することや、単に『ほめる』だけでは、自己肯定感は十分に満たされません。コーチングで言う『承認』が効果的だと思っています」。



「ほめる」と「承認」は違う

「テストで100点取ってすごいね。がんばったね」と、行為や結果に対してのみほめていると、子どもたちは、「100点を取らないとほめられない。価値がない」と思うようになってしまいます。「ほめる」とは、条件付きの評価に過ぎません。
私が日頃接する中学生や高校生には、「〇〇ができないから自分はダメだ」という否定的なセルフイメージを持っている子どもたちが非常に多いです。まだまだたくさんの可能性や強みを持った存在なのに、そう思えない子どもが多いのです。これまで、ほとんど認められてこなかったか、条件付きでしかほめられてこなかった結果ではないかと思っています。
その一方で、厳しい現実を前向きにとらえ、挑戦しようとする子どもにも時々出会います。よくよく話を聴いてみると、家庭で、しっかり「承認」されてきたことがわかります。
「承認」とは、相手の存在を肯定的に認めることです。何かをしたからいい子、何かができるから偉いではなく、無条件に、「あなたは大切な存在だ。あなたは可能性を持った存在だ」というメッセージを伝えることです。「承認」をしっかりされて育ったお子さんは、多少厳しいアプローチであっても、「自分は大丈夫だ。乗り越えられる」と受け止められます。



「自分は価値ある存在」と感じさせるのが「承認」

テストの点数がどうであれ、「今日も元気でいてくれてうれしい」「あなたが大好きだよ」という言葉を折々に伝え続けてみてください。「ここはあなたよいところだね」「あなたがいると明るくなるね」と、その子の強みを伝えてみてください。「あなたには力があるよ」「本当はできる子だよ」と、その子の可能性を伝えてみてください。何かをしてくれたら、「偉いね、いい子だね」という評価ではなく、「ありがとう。助かったよ」と感謝を伝えてみてください。
自分の存在が、周りにどんなプラスの影響を及ぼしているのかが伝われば、子どもは自分の存在価値をもっと感じることができます。自分の存在価値を感じることが、自己肯定感につながります。
「厳しさに慣れさせないとダメになるのでは?」という発想は、子どもの力を信じていない妄想に過ぎません。どうぞ心配なさらず、お子さんの存在そのものをどんどん「承認」し続けてください。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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