辻口博啓さん(パティシエ)に聞く、「スイーツで描いた夢・育む力」【後編】~「スイーツ育」で世界の子どもを幸せに~

人気パティシエの辻口博啓さん。【前編】では、辻口さんの少年時代と、パティシエになる夢をかなえるうえでプラスになった「逆算の生き方」にまつわるお話を伺いました。今回は、辻口さんが近年情熱を注ぐ「スイーツ育」など、人を「育てる」ことについて伺います。

飽きっぽい性格が今の展開につながる!?

意外に思われるかもしれませんが、僕は基本的に飽きっぽい性格なんです。小学校の時から通信簿には常に「飽きっぽい」「落ち着きがない」と書かれていて、母がよく嘆いていました。飽きっぽくて根気がない子どもは少なくないと思いますが、僕はいろいろ試して、実際に体験してみないと、何が自分にぴったり合うのかわからないし、ピンとくるものには出合えないと思うんです。子どもは次々と試していくなかで、徐々に経験が生きてきて、きっとそのうち「これだ!」と執着するものに出合えると思います。それが僕にとってはケーキ作りで、9歳の時からケーキ職人になる夢は揺るぎませんでした。

僕は飽きっぽいからこそ、コンセプトの異なる12ものお菓子のブランドを生み出してきたともいえますし(笑)、今も落ち着きがないところがあるからこそ、石川県や北海道にもある自分のお店の厨房(ちゅうぼう)に入ったり、企業と組んだり、講演をしたりと、いろいろな活動につながっている面があるように思います。
保護者のかたは、ご自分のお子さんに根気がなくても、そう心配する必要はないと思いますね。子どもが一つのことにすぐ飽きてしまうと嘆かずに、「何がこの子に合うんだろう」と、別のアイテムを用意してあげるくらいの心の余裕を持って接してあげたほうがよいのではないでしょうか。

もっとも、これは「なんでも買って与えなさい」という意味ではありません。人は簡単に手に入ったもの、最初から手にしているものはありがたみを感じにくいし、それを使いこなしたり、突き詰めて考えたりすることが難しいですから。


人に何かを教える場合も、初めから手とり足とりでは、考える力が養われません。僕がパティスリー(洋菓子店)で修業を始めて最初に与えられた仕事は掃除でした。最初は下手で、店内すべてを終えるのに3時間かかりました。それがやっているうちにだんだん速くきれいにする方法がわかってきて、やがて1時間でできるようになりました。店がきれいでないと、お客さんが来てくれないこと、スタッフがいい仕事ができないことも学びました。誰かに教えてもらったわけではなく、経験を通して自ら学びとったことです。

また、先輩の中には口うるさい人もいましたが、そういう人は僕が成長するうえで絶対に必要だったと思います。何をやっても許されて、ほめてもらっていたとしたら、今の僕はなかったでしょう。



「スイーツ育」を世界に広めたい

2011年、僕はスイーツ業界の人材育成やスイーツの普及などを目的に、日本スイーツ協会を立ち上げました。具体的には「スイーツ検定」を行ってスイーツを日本の文化として根付かせるための活動や、「スイーツ育」を推奨する活動を行っています。


スイーツ育とは、スイーツを通した食育のことです。僕はスイーツ育の基本は家庭にあると思っています。父の日、母の日、敬老の日、家族の誕生日など、各ご家庭で1年にいろいろなイベントがあると思いますが、そんな日に親子でたとえばロールケーキを手作りすることで、子どもは衛生管理、素材選び、段取り、計算、手の動かし方や力の入れ方、素材の生産者、片付けの大切さなどについて学んでいきます。ロールケーキに使われるイチゴ一つとっても、「これを一生懸命作っている農家の方々がいるんだよ」と保護者が子どもに教えたり、子どもは日本のイチゴとアメリカのイチゴを食べ比べて全然味が違うことを学びとったりして、知識が増えていきます。

お菓子は食べ物の中でも特に素材を使ってまったく違うものができあがります。ここには親子で共に作り上げていく楽しさや、できあがった時の感動、おいしいという思いを共有できる喜びもあります。

僕は自分の作ったものが「辻口さん、これおいしいね!」と言われると、今でも「この世に生を受けてよかったなー」という気持ちになります。幼い時から「この世に生を受けてよかった」と一つでも多く思える子ども、そして、保護者が子どもに感動や自信を与えてあげられる家庭の子どもは、バランスのとれた人間に育っていくと思うんです。
スイーツを日本の文化として根付かせ、スイーツ育を全世界に広げることが僕の夢です。
これからも、僕がスイーツを通して学んできたことを、子どもを含め少しでも多くのかたに伝えていきたいですね。



プロフィール



1967年生まれ。パティシエ。数々の洋菓子の世界大会で優勝経験を持つ。現在は、モンサンクレールをはじめ、コンセプトの異なる12ブランドを展開する傍ら、日本スイーツ協会の代表理事を務め、スイーツを日本の文化にすべく「スイーツ検定」を実施。

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