学校では今 【第18回】「決める勇気」と「決める覚悟」-小泉和義-

小学4年生の次男が、友達3人と玄関口で話をしていました。

息子 「今日は何をして遊ぶ?」
A君 「なんでもいいよ」
B君 「A君決めてよ」
A君 「えーぼくが決めるのー?」
みんな 「……」
息子 「じゃあ、公園でサッカーする?」
B君 「別にいいよ」

こんな感じでした。
リーダーシップをとる子がいなかったことが要因かもしれませんが、何をして遊ぶかをなかなか決められない様子。主体的に「これをやりたい」という強い意志がなく、みんなでなんとなく時間を過ごしているように見えました。皆さんのご家庭のお子さんはいかがでしょうか?

これからの社会は、正解がない時代と言われています。でも、答えを出さずにやり過ごすことはできません。間違っているかもしれないけれど、どうするかを決めて、行動することが求められます。だから、息子の「決める」力をもっと育てたいと思っています。



学校で論理的に決める力を育てる

今まで、学校では「知識や技能の習得」に力を入れてきました。でも今は、習得した知識や技能を使って、「考える力、判断する力、表現する力」の育成に力を入れています。

「判断する力」の育成では、子どもたちが「根拠に基づいて意見を言ったり判断したりすること」を重視した指導を行っています。裏付けとなる理由や根拠があると、その意見や判断に説得力が生まれます。そして、意見や判断をもとに、自分で決めたことに自信を持てるようになります。
たとえば、遠足で動物園と水族館のどちらに行くかをクラスで決めなければいけない場合、動物園・水族館から学校までの距離(遠いか・近いか)、入園料(高いか・安いか)、生き物の種類や数(多いか・少ないか)など、複数の情報を集めます。好き・嫌いとは別の客観的な情報を集めることで、どちらに行くかを一人ひとりが判断しやすくなります。そして、どちらかに決めたときの納得感も増します。



家庭では「好き嫌い」「じゃんけん」で決める力を育てる

根拠となる判断材料を集めることは、決める力を育てるために必要ですが、それだけで十分ではありません。なぜなら、何かを決めるときに、何かを捨てなければならないこともあり、理屈だけで解決できない感情が含まれる場合もあるからです。少し大げさに言うなら、決めるためには「勇気」と「覚悟」が伴います。そしてこの「勇気」や「覚悟」は、これからの社会を生きていくために必要なスピリット(精神)だと思います。

ある先生はこんなことを言っていました。
「決める方法は3つあります。
1つめは、論理的に決める。
2つめは、好き嫌いで決める。
3つめは、 じゃんけんで決める」

学校で論理的に判断し、決める力を育てているのであれば、家庭では「好き嫌い」や「じゃんけん」で決める場面を多く作るべきではないかと思います。なぜなら、判断材料を集め、論理的に考えるだけでは決められないことがたくさんあり、「好き嫌い」や「じゃんけん」は最終的に物事を決める際の重要な方法だと思うからです。
「好き嫌い」で決めることで、決めた結論に対する責任感を高めることができます。じゃんけんで決める場合は、不本意な結果に決まったあとでも結論を受け入れる意識を高めることができます。

家庭の中で、どちらかを選んだり、決めたりする場面があれば、ぜひ実践してほしいことがあります。
子どもが自分で決めることができたら、「なぜそう決めたの?」と聞いてみましょう。
「どっちでもいいよ」と言ってきたら、すかさず「どっちが好きなの?」と聞いてみましょう。
「別にどっちも好きじゃないよ」と言ってきたら、「じゃんけんで決めよう」と提案してみましょう。
ささいな会話ですが、子ども自身が決める機会をたくさん作ることで、「決める勇気」と「決める覚悟」を少しずつ育てることができるのではないでしょうか。


プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

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