いつ、どう伝える? いのちと死【後編】「いのちの大切さ」がわかる子どもとは?

前編に引き続き、近藤先生に「いのちと死」の教育について伺います。



基本的自尊感情があれば大丈夫

「自分は生きていていい」「みんなから大事にされている」と感じている子どもは、自分を大切に思う気持ち(基本的自尊感情)に確信があり、自然と他者のいのちも大切だと思えます。
一方、「いのちの大切さ」がわからない子どもは、他人と比べた結果を評価されることが多いようです。このように、自分が努力した過程を認めてもらえない子どもは、基本的自尊感情が低いまま育つ傾向があります。たとえ成績がよいといった社会的自尊感情が高くても、基本的自尊感情が低いと自分に自信が持てず、他者を思いやる余裕も持ちづらくなります。
このように、自尊感情には「基本的」と「社会的」の二つがあり、「自分や他者のいのちを大切に思う気持ち」を育むことができるのは、基本的自尊感情のほうです。

以下、具体的にどのようなことをすれば、基本的自尊感情を高め「いのちの大切さ」がわかる子どもへとつながるのかのヒントを紹介します。



◆「向き合う」だけでなく「並ぶ」ことも大切に

読み聞かせする本をたまには「いのち」を考えさせるものにする、一日一回は家族全員で食事をしてみんなで会話をするなど、家族一緒の「ふだん」の時間を積み重ねることは、大切にされた体験として子どもの記憶に残り、基本的自尊感情を育むことにつながります。これは「いのちの大切さ」を育む、基本中の基本です。
ところで、親子の関係は、とかく一対一で「向き合い」がちです。しかし、「悲しいのは自分だけではない」といった気持ちを子どもと共有するには、同じ方向を親子で見る「並ぶ」関係がポイントとなるので、ぜひ覚えておきましょう。
一緒にテレビや映画を見たり、一緒に同じ景色を見たりと、ほかのモノゴトを共有する「並ぶ」関係が築けるのはヒトのみで、親戚筋の類人猿でもできないそうです。この「並ぶ」関係を、いのちの教育に活かしてほしいと思います。
日常のさまざまな場面を親子「並んで」経験しましょう。いのちの大切さを育むきっかけが、そこにあるはずです。

◆ダメなものはダメ!でいい
ときに子どもは、「どうして人を殺してはいけないの?」「死ねばいいのに」といったきつい言葉を発することがあります。こんなとき保護者は、「理屈じゃない、ダメなものはダメ!」「死ぬという言葉は大嫌い!」と、自分の気持ちをはっきり伝えましょう。感情をまじえても構いません。ふざけて言ったとしても、こういうことは許されないという保護者のスタンスをはっきりさせるべきです。

◆子ども一人で「いのちの体験」をさせない
前編で紹介したように、子どもの多くは10歳前後に、本当の意味で生や死を意識する「いのちの体験」をし、生きることへの不安や、死への恐れや悲しみを実感します。このときのつらい気持ちを和らげ、希望へとつなげるのが、それまでに聞いた「物語」です。また、子どもが「いのちの体験」をしているとき、共に悲しみ、共に支えあう大人がそばにいることが大切です。このことで子どもは自分が大切にされていることを実感し、「家族がいるから乗り越えられる」と、自分を大切に思う気持ち(基本的自尊感情)を持つことができるのです。
同様に、事故など生死にまつわるショッキングな映像を一緒に見たときは、話題を避けず「かわいそうだね、気の毒だね」と正直な気持ちを子どもに伝え、ぎゅっと抱きしめてあげましょう。同じ思いを共有することで、子どもは「悲しいのは自分一人じゃない」と安心できます。まだ幼い場合は、「お星さまになるんだよ」といった「物語」も忘れずにしてあげましょう。

「いのちと死」をどう捉えるかは、子どもの発達段階と基本的自尊感情の在り方によって変わってきます。保護者のかたには、このことをぜひ知っていただきたいですね。


プロフィール


近藤卓

山陽学園大学総合人間学部 生活心理学科教授。日本いのちの教育学会会長。主な著書に『死んだ金魚をトイレに流すな』(集英社新書)、『基本的自尊感情を育てるいのちの教育』(金子書房)など。

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