ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【最終回】海外赴任経験から学んだこと

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回はロンドンからの引っ越し、そして帰国についてお伝えしました。今回は最終回、家族での海外赴任を振り返ってみます。



娘が中学3年生の春、夫への突然の転勤辞令から始まった我が家の海外赴任体験談も今回で最終回。大小数回にわたる家族会議、その後半年間ほどの夫の単身赴任を経て始まった家族でのロンドン生活も、またもや突然の帰任辞令でちょうど1年間をもって終了し、この春、家族全員で帰国しました。

振り返ってみると、転勤辞令が下りた直後の家族会議では「一人でも、下宿してでも日本に残りたい!」とまで言って強硬にロンドン行きに反対していた娘(第2回)。その娘に、帰国して3か月たった今、インタビューしてみました。

私 「結局1年間だったけれど、ロンドンに行って、住んでみてどうだった?」
娘 「うん、よかったよ」
私 「ロンドンに行ってよかったと思っていること、嫌だったことは?」
娘 「嫌っていうか……困っているのは帰国してから今の学校の勉強だよ(笑)。ロンドンの学校と進度なんか違うし、宿題も多くて……勉強がんばらなきゃ。よかったのは、ロンドンに行く前は英語ができないから不安だったけれど、身振り手振りでも何とかやっていけると思えるようになったこと。ロンドンやほかのイギリスの街はゆったりしていたし、日本人より礼儀正しい人が多くて、リラックスできた。そんな場所に住むことができたのは、なかなか普通には経験できない、とてもいいチャンスだったと思っている」

ロンドンに家族で行くことを決めるまでの娘、決めてからも渡英直前でやはり日本を離れたくないと泣いた娘(第9回)。「超・内向き志向」だった娘の姿を思い出すにつけ、実際に見て、聞いて、触れた経験が10代の娘に与えた影響、そして娘の成長はすばらしい!と感じます。

夫にも、家族での海外赴任経験についてどう思っているか聞いてみたところ、なによりも「仕事は日本よりもずっと大変だったけれど、家族で暮らせたことで精神的にも体力的にも助けられた」とのこと。そして「ロンドンは単身赴任で、一人で過ごしても飽きることがないような街だけれど、やっぱり家族と一緒にいろいろな経験をできて何倍も思い出深い街になった」とのことでした。

家族での海外赴任を決めるまでに一番迷ったのは、「こんなに海外を嫌がる娘を連れて行って、本当にそれは娘にとって意味があるのだろうか」「我が家は家族一緒が基本と決めてはいたけれど、単身赴任で海外に行っているかたも多いし、夫も一人でも大丈夫なんじゃないか」という2点でした。そして、私自身も当時まで約25年間続けてきた仕事を辞めたことを後悔するようになるのでは、と不安にもなりました。

しかし、結果的には、娘と夫が話してくれたように、我が家の場合は家族で一緒に暮らしてよかったと思います。もちろん、それは我が家にとってであって、たとえば同じ時期に、同じ年の子どもがいる家庭に、同じくロンドンへの転勤辞令が下りたとしても、そこで選ぶ道、家族の在り方は十人十色だろうと思います。それぞれの家庭の考え方や事情、置かれている状況によって選択肢も異なるし、そこから選び出す答えも違っていて当然です。

ただ、どのような結論を出すにしても、まずは情報を集め、それらを参考にしながらも、各家庭で一人ひとりが納得するまで話し合って決めることが大切だと思います。決めるということは選択するということ、つまりほかのたくさんの選択肢を捨てることでもあり、捨てることへの納得がないと新しい生活を楽しむことができなくなるのではないかと思うからです。

私が捨てたものは仕事でしたが、家族で過ごした時間、自分自身の好奇心を刺激された時間をくれた今回の経験を選んだことに悔いはありません。家族で決めて納得していたからこそ、気持ちを切り替えてロンドンでの生活を充実させることができたと思います。

また、ロンドンに住んでいたときから、ほぼリアルタイムで原稿を書かせていただいたことで、我が家にとってもその時々の様子、思いを記録として書き残す機会になりました。このような機会を与えてくださったベネッセ教育情報サイト編集部の皆さまには、心より感謝申し上げます。

そして、何より私の不慣れな文章を読んでくださった皆さま、コメントを寄せてくださった皆さま、本当にありがとうございました。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

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