ペットが教えてくれること【前編】普及が望まれる「動物介在教育」

欧米では、教師のペット(主に犬)を教室に連れ込み、子どもたちによい影響を与える「動物介在教育」が盛んです。日本では、まだ普及していない動物介在教育について、麻布大学の太田光明先生に伺いました。



ペットを学校に迎えたら……!?

最初にオーストリアの調査報告を紹介しましょう。それは、小学校の教室で1頭の犬を「仲間」として迎えたところ、生徒たちが先生の顔を見ている時間が増え、授業に集中するようになったというものです。さらには攻撃的な行動が減り、けんかが起こったときには仲裁に入る子どもが登場するなど、クラスの和が深まったのです。なぜそうなるのかを科学的に分析することはできませんが、この結果は犬が子どもたちに「よい刺激、よい影響」を与える存在になる可能性を示唆していると考えられます。

このように、教育の現場に動物のチカラを活用することを「動物介在教育(Animal Assisted Education)」と呼びます。動物介在教育は、欧米を中心に多くの学校で導入されており、私が視察したドイツ・オーストリア・スイスでは、教師が当たり前のように、自分の飼っている犬を教室に連れてきていました。しかし動物介在教育は、教師のトレーニングが必要です。日本は文部科学省が「心の教育」を重視し、自然体験活動が注目されているにも関わらず、残念ながら動物介在教育が浸透していません。先生が忙しすぎて、動物介在教育に取り組めないこと、動物介在教育自体を知らないことが大きな要因のようです。



家庭でも動物介在教育ができる

毎日、教室に行くと犬がいる……。一緒に授業を受けたり、一緒に遊んだり、散歩をするなどの世話をしたり、ときには悩みごとをこっそり聞いてもらったり……。そんな光景が日本の学校に早く普及すればいいのにと思いつつ、これからは、「ペットを飼うことで可能となる動物介在教育」を考えてみましょう。

飼っているペットが子どもに与える影響についての調査報告もありますので、そのいくつかを紹介します。アメリカの研究者の調査では、「7歳児(72名)と10歳児(96名)にとって、ペットは<特別な友達>であり、<ペットと親密な会話>をしている」と報告しています。また、同じくアメリカの研究者で「子どもとペットの関係性」研究の第一人者・パデュー大学のメルソン氏らは「56名の5歳児のうちの42%が、悲しみ・怒り・恐れ・幸せのうち、少なくともひとつの感情を感じたとき、ペットに話しかけている」と報告しています。そしてドイツの調査では、9~10歳の男児213人・女児213人のうち79%が「悲しいときペットと一緒にいる」ことを好み、69%が「ペットと親密に分かち合っている」としています。
これらのことから、良い意味でも悪い意味でも、子どもが何かしらのストレスを感じたとき、その子を支える役割をペットが担っていることがわかります。もちろん、子どもの気持ちをただ受け止めてくれる存在は、保護者を筆頭にたくさんいることでしょう。しかし、さらにそこにペットが加わることで、子どもはもっと気持ちが楽になったり、ぐんと前向きになったりするのです。

ほかにもイギリスの研究では、ペットを飼っている家庭の子どもは、飼っていない子どもに比べて、学校に出席する日数が年に3週間多いという報告もあります。後編では、ペットを飼うことが子どもに与える「よい影響」について、さらに考えてみましょう。


プロフィール


太田光明

麻布大学教授。農学博士。獣医学部・動物応用科学科・介在動物学研究室にて、セラピーアニマルなどの介在動物学の研究をさまざまな角度から進めている。

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