ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第19回】ロンドン生活1年後の娘の変化

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回はロンドンの子育て環境、子育て支援についてお伝えしました。今回は、高校生の娘のその後の様子をお伝えします。



夫のロンドン転勤に伴い、中学校卒業後の3月下旬からロンドンで暮らし始めた娘。連載12回目では、娘の英語との格闘(?)についてお伝えしましたが、今回はその後の娘の様子についてお伝えします。

ロンドンに住み始めて1年。片道1時間半の電車・バス通学にもすっかり慣れた娘。高校生くらいの年齢なら、あっという間に「英語ペラペラ」になり、素晴らしい発音をするようになる……と、お考えになるかたもいるかもしれません。実際、私たちが日本を離れる前、多くの友人・知人から、そういう期待を込めた言葉をかけてもらいました。……が、第12回にも書いたように、驚くような英語力の伸びは残念ながら今のところはありません。というのも、娘の通学する学校は日本人向けの高校のため、英語を使う機会や英語の授業時間は日本の学校よりは多いものの、基本的には日本語での授業、生活を送っているからです。

とはいえ、この1年間で娘が変わった、と感じる点はいくつかあります。

1点目は積極性です。娘は小さいころから目立つこと、人の前に出ることを嫌がるところがありました。しかし、こちらで生活を始めて数か月たったころ、娘が「今、友達と2人で学年誌を作っているんだよ」とぽつりと一言。私が「へー、学校でそういう係になったんだね」と返すと、「いや、○○ちゃん(娘の同級生)と私とで企画して、せっかくロンドンで高校生活を過ごしているんだから皆の記録にもなるものを作らせてほしい、って先生に提案したの」とのこと。これにはびっくり!ですが、うれしい驚きでした。一緒に取り組むお友達から誘われて始めたのかもしれませんが、それでも以前の娘なら「変わったことをやって目立ちたくない」と尻込みしていたかもしれません。

また、学校だけではなく、娘はロンドンでの暮らし自体も積極的に楽しむようになってきました。通学の途中で毎日立ち寄る駅の売店のおじさんとなじみになったり(時々お菓子を値引きしてもらっているようです)、学校の職業体験(第12回でご紹介)でお世話になったチャリティーショップの店長さんからは、次の職業体験の期間も娘に来てほしいとリクエストしてもらい、再度2か月間お世話になったり、近所の教会の合唱団への入団を考えたり。英語はあまり上達していないかもしれませんが、英語という壁を越えてロンドンに住むさまざまな人々とかかわることを楽しんでいるようです。実際、ロンドンで出会う人は気さくで明るく、親切な人が多く、そういうことも娘を積極的にさせているのかもしれません。

また、ロンドンはさまざまな国や地域から来た人々が一緒に暮らす、世界一と言ってもよいほどの多文化社会です。ロンドンに来たばかりのころは、そういう人々の中で暮らすことに緊張していましたが、今は娘もすっかり慣れて、むしろさまざまな顔立ち、肌の色、言葉を持つ人々に囲まれて暮らしていることが楽(自分もその中の一人なので)に感じるようになってきたと話しています。確かに、それぞれが違って当たり前、というのは日本との大きな違いだと感じます。

ロンドンに来る前は、海外に住むことはもちろん、海外への旅行すら嫌がっていた娘。「日本以外、東京以外には住みたくないし、住めない。言葉も通じないところなんて、絶対無理」と言っていた娘が、1年もたたないうちに海外での生活にここまでなじむとは、正直なところ思っていませんでした。子どもの順応力は、周りや本人が思っているよりも、ずっと高いのかもしれません。

もう一つの娘の変化は、芸術に興味を持ち始めたことです。前回も紹介しましたが、ロンドンには本当にたくさんの美術館や博物館があり、その多くは入場無料なので、大人も子どもも気楽に芸術に触れることができます。有料ではありますが、バレエ・演劇・オペラ・ミュージカルなど、さまざまな舞台芸術に触れる機会にも恵まれています。また、人々の芸術の楽しみ方はとても気楽で、堅苦しさを感じることなく芸術に触れることで、芸術がますます身近に感じられます。

娘は昨春、偶然見かけて立ち寄ったナショナル・ギャラリーという美術館で多くの素晴らしい絵画を見て、本物の芸術の迫力や素晴らしさに感動したそうです(それまでは誘っても美術館に一緒に出掛けることはなかったのですが)。芸術に身近に、しかも気軽に触れることができる環境は、感受性豊かな子どもの時期にこそ大切だということを改めて感じます。

とはいえ、やはり日本とは違う場所で生活する不自由や不便さもたくさんあり、英語力も一朝一夕では伸びません。しかし、それ以上に、ロンドンで生活する中で娘自身が感じたことや経験したことは、娘の人生の糧となり、娘「らしさ」を作っていく一つの要素になることと思いますし、娘にはそれを活かして生きていってほしいと思います。

次回は、突然の帰任命令!?についてお伝えします。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

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