今年も安全志向? 2014年入試結果に学ぶ、夏休み前に高3生がやるべきこと【前編】‐村山和生‐

夏休みを目前に、そろそろ部活を引退する人も増え始め、いよいよ受験モードという高3生は多いのではないでしょうか。また2013年、2014年のセンター試験が難しかったことで、不安にかられている人も少なくないはずです。
そこで、多くの受験生が苦しんだ2014年度の入試を改めて振り返るとともに、夏休み前の6~7月に現・高3生がやるべきこと、意識しておくべきことを解説していきます。前編は、昨年入試の振り返りと分析です。先輩たちの反省点を、ぜひあなたの入試に役立ててください。



過度の安全志向がめだった2014年度入試

18歳人口の減少で出願者数は減ったものの、2014年度のセンター試験は受験生にとっては難しいものでした。全体での平均点は2013年度と比較してアップしましたが、そもそも、その2013年度のセンター試験がとても難易度の高いものだったので、特に文系の受験生を中心に「思ったよりも得点できなかった」と感じた人が多かったようです。もちろんセンター試験だけで受験生の動向が決まるわけではありませんが、難しかったセンター試験がここ数年続く安全志向にさらに拍車をかけたことは事実です。

一方で今春受験の現役生は、俗にいう「ゆとり世代」の最後の学年でもあります。今の高3生の皆さんが受験する2015年度入試からは、理科と数学が先行して新しい教育課程になるため、1つ上の先輩たちには「どうしても現役で受かっておきたい」という意向が非常に強く見られました。
これらの要因から、多くの受験生に過度の安全志向が働いたのが2014年入試だったのです。



難関国立大学の出願減少 私立大ではMARCHクラスの志願者に弱気傾向

東大・京大をはじめとした難関国立大については、志願者数の対前年比指数は、2013年度入試での志願者数を100とすると98となり、出願の手控えが見られました。強い現役志向に加え、後期試験を廃止し前期一発勝負の難関大が増えたことで、勝負に出られない人が増えたのでしょう。ただし、対前年比98という数字は、あくまで「記念受験する人が減った程度」ともいえます。決して極端に難易度が下がったわけではありません。

一方の早稲田・慶応をはじめとした私立難関大は、対前年比100と横ばい状態。ですが、明治・青山・立教・中央・法政クラス(いわゆるMARCHクラス)では、対前年比95と手控え傾向が見られたことも大きな特徴です。そんななかで、唯一大学全体での志願者を増やしたのが法政大学。その理由の一つが、今年度より「T日程入試(全学部)」で、指定科目を受験すれば複数学部の併願が可能になったことの影響です。これにより、確実に法政大学で合格通知を手にしたい受験生が、従来よりも併願しやすくなった他学部へ積極的に出願したと考えられます。



「WEB出願」「複数学部併願」時代の数字の見極め方

出願手続きの簡便性に加え、複数学部での併願が可能になる入試方式の導入は、ここ数年の大きなトレンドです。2014年度入試でも、近畿大学の「近大エコ出願」や東洋大学の「ネット出願」、日本大学の「N方式第1期」、そして前述した法政大学「T日程入試」など、「WEB出願」や「複数学部併願」が可能になる大学が多く見受けられました。また、「WEB出願」「複数学部併願」に「受験料割引」をセットにしている大学も多く、受験のしやすさから志願者が大幅に増加することも。
こういった制度は受験生へのメリットも大きいですが、注意すべきこともあります。志願者数や倍率が、必ずしも難易度とリンクしなくなっているのです。大学側が公表している志願者数は、あくまで「延べ人数」(たとえば、1人の受験生が3つの学部を併願した場合、志願者数は3人とカウントされる)。現実の実受験者数(前述の例でいえば、3つの学部へ願書を出した人の数=1人)は、必ずしも増えていない大学もあるようです。ですから、志願者数や倍率が大幅にアップしていたとしても、難易度はほとんどアップしていなかった、といった場合もあるのです。

実際の志願者数や倍率が見えにくくなっている現在、志望校を決める時には、志願者数や倍率だけで安易に判断するのは危険です。大事なのは、実際に必要な学力や、過去にどんな先輩たちが合格したかなど、高校の先生からアドバイスを受け、実際の難易度を検討すること。倍率が跳ね上がり、無理だと思っていた大学が、実は意外と手が届くとわかることもありますし、もちろん、その逆もしかりです。そのうえで、複数学部に出願するのであれば、出願するすべての学部の内容を吟味してください。出願にあたっての煩雑さが軽減されているのですから、その分、学部ごとの授業内容や身に付くスキルなどを確認する時間が生み出せるはずです。この時期に「どの学部に進学しても、それぞれに学びたい内容が明確になっている」というレベルにまで志望校の内容理解ができていれば、これから先の学習効率もぐっと高まりますよ。

後編では、夏休み前のこの時期に高3生がやるべきことについて解説します。


プロフィール


村山和生

ベネッセでは進研模試等を通した高等学校への進路指導支援、大学入試分析、進路説明会講師等を担当。2012年からはベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室のシニアコンサルタントとして大学の教学改革支援や入試動向分析、「VIEW21大学版(現:Between)」編集長等を担当。16年からは「ベネッセ i-キャリア」にて大学生向けアセスメント分析や大学IRのための統合データベース開発などを担当。17年からは一般財団法人大学IR総研の調査研究部にて、研究員として高等教育全般の調査・研究と教学改革支援、ならびにIRの推進支援に携わる。
ベネッセコーポレーション帰任後は、学校支援事業の経営企画業務に従事。21年からベネッセ文教総研の主任研究員として、高等教育を中心に「学修成果の可視化」「IR」を主なテーマとして調査、研究、情報発信を続けている。

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