教科書問題で揺れる「共同採択」って?-渡辺敦司-
沖縄県竹富町教育委員会の教科書採択問題で、八重山採択地区を分割することを正式に認めたことが大きなニュースになっています。教科書採択制度に関しては以前取り上げましたが、ここでは「共同採択制度」について詳しく見ていきましょう。
先に紹介したとおり、公立学校でどの教科書を使用するかの採択権限は学校を設置する教育委員会にあるのですが、無償で給付される小・中学校の教科書は「採択地区」で相談して同一の教科書を採択することになっています。これが共同採択制度です。採択地区は都道府県教委が設定することになっており、規模の大きな市区などでは一つの教委が単独で採択地区となっている一方、規模の小さな自治体は複数で採択地区を構成しています。採択地区の設定単位は教科書無償措置法で「市郡」とされていましたが、郡域を超えた市町村合併が行われている実態を踏まえ、2014(平成26)年4月の法改正で「市町村」単位に改められました。ただし今回の法改正はあくまで共同採択制度を前提にしたもので、規模の小さな自治体にも単独で採択を認める趣旨ではないと文科省は説明しています。
では、なぜ共同採択制度を採っているのでしょうか。文部科学省(外部のPDFにリンク)は、
(1)どの教科書がふさわしいかの調査・研究には人手がかかる
(2)採択したあと、その教科書を使った授業研究が地区内でできる
(3)児童・生徒が地区内で転校しても教科書が変わらない
(4)地区でまとめれば教科書の供給がしやすく、コストも安くできる
をメリットとして挙げています。八重山地区の採択問題が起こった際、時の民主党政権は市町村単独の採択ができないか検討しましたが、教委にヒアリングを行ったところ単独採択は事務負担が大きいため賛成する意見は極めて少なく、見送ったといいます。今回の法改正に当たっても、共同採択制度の是非は検討しませんでした。
採択地区をどう設定するかは沖縄県教委の権限であり、八重山地区を分割することも同県教委の判断でできるのですが、下村博文文部科学相は竹富町の規模では単独で十分な調査・研究ができないと見たうえで、共同採択地区には「地理的・文化的・経済的な一体性」が必要であるとして、分割は望ましくないとの立場を繰り返し表明していました。竹富町は竹富島のほか、日本最南端の有人島である波照間島、特別天然記念物イリオモテヤマネコの生息地として知られる西表島、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」の舞台にもなった小浜島など大小16の島々(うち有人9島)で構成されていますが、町役場を経済や交通の中心地である石垣市に置いていることも、その根拠としています。なお、竹富町の中学校9校で今年度の3年生に寄付により配られた東京書籍版の公民教科書は計46冊でした。
沖縄県は基地問題などを抱えている一方で、八重山地区は地理的に沖縄本島よりも台湾に近く、中国と領有権が問題となっている尖閣諸島は石垣市に属しています。教科書採択問題にはそうした歴史的・地勢的な背景も複雑にからんでおり、全国的な視点では割り切れないことも確かです。
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