武雄市が学習塾と「官民一体型」小学校‐渡辺敦司‐

佐賀県武雄市は来年度、民間学習塾と提携して「官民一体型」で小学校を運営することを決めました。武雄市といえばDVDレンタル大手「TSUTAYA」を展開する会社に市立図書館の運営を民間委託して一躍有名になりましたが、教育面でも全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別成績を発表したり、以前紹介したように今年度からは一人1台のタブレット端末を配布して「反転授業」(同市では「スマイル学習」と呼称)の実証実験に乗り出したりするなど、独自の施策を行ってきています。

地元生まれで総務省出身のアイデアマン樋渡啓祐市長は、進学や受験に特化しない塾と連携して官民一体の学校運営をしようと、2012(平成24)年度から市教育委員会と話し合ってきたといいます。そうした時、2013(平成25)年2月に福島県内で行われたイベントで、東京都杉並区立和田中学校の元民間人校長で「教育改革実践家」の藤原和博氏(今年4月より無報酬の同市特別顧問)から「花まる学習会」(さいたま市、高濱正伸代表)を紹介されたそうです。幾つかの候補を検討する中で、数理的思考力・国語力・野外体験の三本柱で「メシが食える大人」の育成を掲げる同会の取り組みが最適だと話が進み、3月の臨時教育委員会で10年契約(小学校6年間プラスアルファとして設定)を結ぶことを決めました。
リクルート、和田中校長と藤原氏の後輩である代田昭久・同市教育監は、今年度から市立武内小学校長を兼任し、市の「研究開発校」として既に反転授業の実証実験も行っています。夏からはこれに加え、同会の講師と研究開発を実施。秋には、希望する小学校に校区の区長会とも相談して手を挙げてもらい、初年度は2~3校を通称「武雄花まる学園○○小学校」に指定。その後の動向を見ながら、指定校数を増やしたり、中学校にまで拡大したりすることを検討したいとしています。

代田教育監によると、反転授業にしても官民一体型学校にしても、教科縦割りの構造になっている今の学習指導要領に「横串」を差し、将来に必要な「21世紀型スキル」を育てることが狙いだといいます。21世紀型スキルといえば、先に紹介した文部科学省の動きもそれに呼応したものですが、もともとはインテルやマイクロソフトなどが主導する国際プロジェクト「ATC21S」が提唱したものですから、民間企業の参入というのも自然な流れなのかもしれません。
ところで同市の「官民一体型」学校は「公設民営」とは違うと、代田教育監は説明しています。塾との提携といっても決して丸投げするのではなく、官民のよいところを出し合って協力しながら新しいものを作り上げていくのだと樋渡市長も強調していました。

最近では少子化時代に対応して、必ずしも受験勉強に特化せず広く「生きる力」の育成を目指す民間教育事業者が増えてきています。土曜授業や教員研修に塾講師を招くなど、「民」への拒否感も昔ほどなくなっています。武雄市の試みをきっかけに、意外と早く公教育への民間参入が全国的に広がっていくかもしれません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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