海外留学者が7年連続で減少……増加の課題とは? ‐斎藤剛史‐

政府は、グローバル化に対応するため、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020(平成32)年までに日本から海外の高等教育機関への留学生を現行の2倍の12万人に増やす方針を掲げています。ところが、実際の海外留学者は7年連続して減少していることがわかりました。マスコミでは日本の若者の「内向き志向」の強まりなどが指摘されていますが、海外への留学が減っている原因とは何でしょうか。そして、それを増やすにはどうしたらよいのでしょうか。

経済協力開発機構(OECD)などの統計資料をもとに文部科学省がまとめたところによると、2011(平成23)年における日本から海外の大学など高等教育機関への留学者数は、前年より559人減の5万7,501人でした。海外留学者は2004(平成16)年の8万2,945人をピークに、7年連続で減少。ピーク時に比べて約3割も減った計算です。
政府はグローバル化に対応するため、昨年6月に策定した「日本再興戦略」の中で、海外大学などへの留学者を現行の約6万人(2010<平成22>年当時)から2020(同32)年までに2倍の約12万人に増やすことにしています。しかし、2011(平成23)年現在の統計で海外留学者が5万7,501人ということですから、現状では計画達成はかなり厳しそうです。

なぜ海外留学者は減少しているのでしょうか。数字的に見ると、一番の原因は米国留学の減少です。日本人学生の留学先として米国はずっとトップに立っていますが、留学者は2008(平成20)年が2万9,264人、11(同23)年が1万9,966人で、3年間で31.8%も減少しています。同時にドイツなど西欧諸国も減少しているのに対して、中国・韓国・台湾などへの留学者は増えています。欧米中心の留学スタイルが崩壊し、アジア諸国など留学先が多様化しつつあるというのが現状のようです。
わざわざ欧米諸国で学ぶ必要はないという学生が増えたことを、「内向き」ととらえるか、日本社会の成熟ととらえるかは、意見の分かれるところです。次に挙げられるのが、家庭の経済力の低下、就職活動開始の時期に間に合わないなど就職への不安などでしょう。企業もこれまで留学経験者を必ずしも優遇してきませんでした。

ところが最近のグローバル化の進展の中で、民間企業も海外留学経験者を積極的に採用しつつあり、2016(平成28)年4月入社の大学生から就職活動の開始時期が3年生の3月(現行は3年生の12月)に繰り下げられることになりました。また、前に本コーナーで紹介した文科省の「トビタテ!留学JAPAN」では、新興国への留学、ボランティア活動やインターンシップなども含めた留学も奨学金などの対象となっています。これらの施策でどの程度海外留学が増えるかは、まだわかりません。しかし、成熟社会を生きる学生たちに海外留学を促すには、「内向き志向」と若者を批判するだけでなく、さまざまなニーズに対応した多様な留学の在り方を支援することがより重要になってきそうです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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