コミュニケーション力を伸ばす!【後編】個性を大切にしたコミュニケーション

「おとなしくてお友達の中であまり発言できなくて……」「ほかの人の意見を聞かず、自分の意見ばかり」など、お子さまのコミュニケーションの様子を見ていると、つい心配になることも。前回に引き続き、今回は、お子さまの個性を生かしたコミュニケーションについて、東京学芸大学教授の松井智子先生に伺いました。



短所を個性として捉えて楽しくコミュニケーションを

話を聞くのは好きだけれど、話すことが得意ではなかったり、話すことは得意だけれど、人の話を聞くのは苦手だったり……など、お子さまの個性によって、コミュニケーションの特徴もさまざま。「うまくコミュニケーションできるかしら……」と心配になることもあると思います。しかし、保護者のかたが心配しすぎると、お子さまがそのことを「自分の短所」だと思い、コミュニケーションをする際の「不安の種」になってしまうこともあります。
実は、コミュニケーションがうまくいかないことの大きな原因は、「不安」です。保護者のかたには、お子さまの「不安」の種となる心配な点を「短所」ではなく「個性」と捉え、個性を大切にしながら、楽しくコミュニケーション力を伸ばすような働きかけをしてあげてほしいと思います。それでは、早速、タイプ別にどのような働きかけができるかを見ていきましょう。

【お子さまのタイプ別アドバイス】
◆おとなしくて、お友達の中ではあまり発言できないタイプ
「きちんと話しなさい」と無理強いするのではなく、基本的には温かく見守ってあげましょう。「話題を見つけるのが苦手」という場合は、まず保護者のかたが、お子さまが何を面白い・うれしいと感じ、どういうときによく話すのかを、じっくり観察してみてください。そして、お子さまが興味のあることを話題にして、言葉を引き出してみましょう。
「言いたいことがあるけれど、なかなか勇気が出ない」という場合は、安心して話せる状況を作ってあげましょう。そのためには、まず、保護者のかたや周りの大人がお子さまの話をじっくり聞いてあげることが大切です。また、聞くことが得意なお子さまであれば、「じっくり人の話を聞けることは、会話では大切なことだよ」といいところをほめてあげるとよいでしょう。
「うまく会話が成立した」という成功体験が積み重なれば、信頼できる大人や友達に対してはよく話すようになり、徐々にいろいろな人とも、話ができるようになっていきます。

◆他人の意見を聞かず、自己主張が強いタイプ
「話し上手だね」と、まずはいいところをほめてあげてください。そのうえで、「話し上手だったら、聞き上手にもなれるよ。それに、もっと聞く人が面白いと思ってくれるように話すにはどうしたらいいかな?」と切り出してみましょう。
そうすると、お子さまは「相手はどんな話が聞きたいかな?」と考え、「相手の話も聞いてみよう」と思ったり、相手の表情を読んだりするようにもなってきます。「相手の話を聞くことで、コミュニケーションがもっと楽しくなった!」という経験をすると、コミュニケーションの仕方も変わってくるでしょう。



「違って当たり前」を大切に

このようにお子さまの個性を大切にして伸ばしていくことで、お子さまはコミュニケーションの楽しさを実感していきます。
その時にもう一つ、伝えてほしいのは「個性の違いを尊重することの大切さ」です。日本には「共感する」ことに重きを置く文化があるため、「共感してもらえなかった」「相手が同じ考えではなかった」というときに、必要以上に落ち込んでしまうお子さまも少なくないからです。
しかし、人はそれぞれ異なる家庭環境や社会で、異なる経験をして育ってきています。価値観も、好みも違っていて当たり前。100%共感し合えることのほうが、実は少ないのです。お互いが持っている「違い」を認め合い、尊重できれば、より良いコミュニケーションができるようになるでしょう。
ご家庭では、お互いの共感できるところや共通点を大事にしながら、「違い」も楽しめるようなコミュニケーションを大切にしていただきたいですね。たとえば、折りに触れて「あなたはどう思う?」「なぜ、そう思うの?」と聞いて、それを受け止めたうえで「お母さんは、こう思うよ」と伝える。そして、自分とは異なる新たな視点を楽しむのもよいと思います。


≪保護者へのメッセージ≫
このような個性や意見の違いを尊重する姿勢は、お子さまがこれから生きていくグローバル社会でも大切なことです。日本人のコミュニケーションのよさは、他者と上手に調和できることや、一つの目標に向かって力を合わせていけることです。そのよさに加えて「互いの個性や意見を尊重して生かす」という視点を身に付けられれば、グローバル社会ではきっと貴重な人材になるでしょう。一つのプロジェクトにさまざまな文化や背景を持つ人が集まっていたとしても、「それぞれの個性や持ち味を生かしながら、一つのゴールを目指そう」と、みんなを引っ張っていけるはずです。
グローバル社会でのコミュニケーションというと、大きい話に聞こえるかもしれませんが、日々のコミュニケーションの積み重ねが、将来のコミュニケーション力の土台になります。がんばりすぎる必要はありません。「私はコミュニケーションが苦手だから」と不安になる必要もありません。まずは、お子さまとの会話を楽しみ、「コミュニケーションって楽しい」という経験を積み重ねていきましょう!


『子どものうそ、大人の皮肉』『子どものうそ、大人の皮肉』
<岩波書店/松井智子 (著)/1,728円=税込>

プロフィール


松井智子

1987年早稲田大学教育学部卒業。1995年ロンドン大学ユニバーシティカレッジ博士課程修了。国際基督教大学、京都大学を経て、2010年より現職。専門は認知科学、語用論。著書に『子どものうそ、大人の皮肉--ことばのオモテとウラがわかるには』(岩波書店)など。

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