子どもの「本当の気持ち」を聴いていますか?[やる気を引き出すコーチング]

新年度、いかがお過ごしでしょうか。昨年からコーチングをさせていただいた受験生も、無事、第1志望の大学に合格、元気に新生活をスタートしている様子を思うと、私もとてもうれしく心浮き立つ春です。

「受験勉強にやる気が出ません。コーチングを受けたいです」というメールから始まった高校3年生Aさんとの8か月に及ぶコーチングは、私にたくさんの気付きを与えてくれた貴重な経験でした。



気がかりを受けとめ、取り組み方が変わった

Aさんの話を聴きながら、ある時、ふと気になって、こんな質問をしたことがありました。Aさんが、心から「勉強がんばります」と言っているようには思えなかったからです。
「何か今、気になっていることとか、話してみたいことはない?」
この質問に、Aさんが絞り出すように言った言葉は、
「本当にこの進路でいいのか……って思えてきて。でも、今さら志望校を変えたら、浪人覚悟だし……、このままがんばるしかない」
でした。センター試験が3か月後に迫っている時期でした。Aさんの心からの本音を引き出した瞬間だったと思いますが、さすがに、この時は、思いがけないことで驚いてしまいました。
コーチとしては、「じゃあ、本当に行きたいところはどこ? 本当にやりたいことは何?」と質問したいところです。が、私の中でも葛藤が起きていました。今頃、そんなこと言われても……。このままがんばれないのか? でも、本当にやりたいことから目をそむけて進むのはどうなのか? 入学してから後悔しないでほしい。でも、たしかに、この時期に方向転換するのはリスクが高いのではないか? でも、本当にそれでいいのか?
葛藤を感じながら、「そうか、そんな気持ちだったんだ」と、ただ、Aさんの気持ちを受けとめることしかできませんでした。それ以外、どうしていいかわからないというのが正直なところだったのです。
ところが、2週間後のコーチングでのAさんは晴れやかでした。
「大きな変化がありました! 志望校を変えることにしました! やっぱり、本当に行きたいところに行くことにしました!」
今度は、あまりの潔さにびっくりしました。それからのAさんは、心のつかえがとれたのか、いっそう勉強にも集中できるようになったと言っていました。最終的に、無事、現役合格を果たしました。
「自分の中にある気がかりを外に出し、受けとってもらえたら、ちゃんと自分で自分の行きたい方向に気付き、決断できるんだ。取り組み方も変わってくるんだ」と、あらためて感じた出来事でした。



思い込みを脇に置いて聴いてみる

進路に限らず、お子さんが、本当はどうしたいと思っているのか、どんなことを考えているのかじっくり聴いてごらんになったことがありますか? 「この子はこうだから」「こうしたほうが本人にとってよいはずだから」と、保護者が思っていることは、本当にそうなのでしょうか?
中高校生のお子さんを持つ保護者の皆さんとお話をしていると、こんな言葉を耳にすることがあります。
「うちの子は、まだまだ何も考えていないみたいで……」
「本当に勉強嫌いな子なので……」

時々、「それは事実ですか?」と、つっこみたくなることがあります。実際に、お子さん本人の気持ちを聴いてみて、おっしゃっていることなのでしょうか? 本当は、本人なりに何か考えていることがあって、それは、もしかしたら、こちらが思っていることとはまったく違う、という場合もあるかもしれません。こちらの価値観を押しつけても、やる気は起きません。
「きっとこうだから」という思い込みを脇に置いて、「そう思っているんだね」と受けとめながら聴いてみることはとても大切な過程のように思います。自分の中にある想いや気がかりを受けとってもらえたと実感できたのなら、Aさんのように、晴れやかに前に進めるのではないかと思うのです。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

子育て・教育Q&A