コミュニケーション力を伸ばす!【前編】年齢別 コミュニケーション上達法

「クラス替えで、新しい友達とうまくやっていけるかしら?」「これからの時代、コミュニケーション力が大事だと言われているけれど……」など、お子さまのコミュニケーション力について関心をお持ちのかたも多いと思います。コミュニケーションについて研究されている東京学芸大学教授の松井智子先生に、コミュニケーション力の伸ばし方を伺いました。



コミュニケーション力は経験とともに育つ!

コミュニケーション力というと、特別なスキルのように思えますよね。でも、決して特別なものではありません。コミュニケーションに必要なのは、「言葉を使ったり理解したりする能力」と、「心を理解する能力」であり、これらの能力は、私たちの脳に、生まれつき組み込まれているのです。
しかし、周りを見渡すと、自分の気持ちを伝えるのが上手な人、苦手な人もいれば、人の気持ちを察するのが上手な人、苦手な人もいますよね。実は、コミュニケーション力の伸び方は、成長する過程で、どのような会話をどのくらいしたかが大きく影響します。つまり、コミュニケーション力は、経験に比例して伸びていくと言えるのです。
コミュニケーション力を伸ばすには、「言葉を使ったり理解したりする能力」と、「心を理解する能力」を育むだけでなく、相手への興味や、相手とのやりとりそのものを求める気持ちを高めることも大切です。そのために、ご家庭でできることは多くあります。お子さまの発達に応じて、保護者のかたができることを見ていきましょう。詳しいことは、『子どものうそ、大人の皮肉』という本に書いてありますので、そちらもご覧になってみてください。

【年齢別 コミュニケーションアドバイス】
● 1歳半~3歳ごろ
最近の研究では、1歳半ごろには既に、他者の気持ちを推測しようとする力が備わっていることが解明されています。3歳ぐらいになると言葉も豊富になりますが、まだ、物事をひとつの側面からしか見ることができません。そのため、話は一方通行で、相手を気遣うことも難しいというのが特徴です。
この時期、まだ言葉が出ていなくても、心配する必要はありません。大切なのは、周りの人がどんどん話しかけてあげることです。お子さまはきちんと聞いて理解しています。話しかけられることで、言葉や知識を吸収する時期なので、絵本なども活用して、いろいろな話をしてあげてください。

●4歳~7歳ごろ
言葉の力だけでなく、相手の心を理解する力も発達し、「あの人は○○と思っている」と、説明できるようになってきます。相手にわかるようにある程度話ができ、会話も成立し始めますが、自分の興味がないことについては、聞きたいとも話したいとも思わない時期です。
「質問されたら答える」という社会的なルールもまだ身に付いていないので、もし、お子さまとの会話が成立しなくても、心配する必要はありません。
お子さまの好きなことを話題にしたり、「今日、○○君と遊んだときどうだった?」など、お子さまが頭の中で状況を思い浮かべられるような具体的な質問をしたりすると、話が盛り上がりやすいでしょう。「この前、動物園で見たペンギンがかわいかったね」など、一緒に体験したことを話題にするのもおすすめです。

●8歳~12歳ごろ
より抽象的な概念の理解ができるようになります。「Aさんは『Bさんが○○と思っている』と思っている」という複雑な内容も理解できるほか、言葉の裏にある意図もわかるようになります。皮肉やおせじが通じるのも、ようやくこの段階になってから。「友達とうまくいかない」など、コミュニケーションについて悩みを持ち始めるのもこの時期です。
だからこそ、お子さまが「コミュニケーションがうまくいかない」と悩んでいても、落ち込む必要はありません。「やっとそういうことが考えられるようになった」と成長を実感してほしいと思います。
この時期はまだ、お子さま同士で妥協点を見つけるのは難しいもの。謝ってみたり、けんかしてみたり、いろいろな経験を積んで、お子さまはコミュニケーション力を育んでいきます。「この子と付き合っちゃだめよ」など、保護者のほうが制限をかけるのではなく、一緒に解決方法を考えたり、「お母さんは、こういうことがあったよ」と、自分の経験を教えてあげたりすると良いですね。
思春期以降は、メールなど、より相手の気持ちを推し量ることが必要なコミュニケーションも増えてきます。そのときに困らないためにも、この時期に対面のコミュニケーションで、たくさん経験を積んでおくことが大切です。



親子の会話で子どもの「話をしたい」という気持ちを高める

お子さまは、「聞いてもらえるとうれしい」という体験をすると、話すモチベーションが高まります。忙しくて親子の会話の時間がなかなか持てないというかたもいらっしゃると思いますが、時間は少なくても、お子さまの一言ひとことを丁寧に受け止めて、「聞かせてくれてありがとう」と気持ちを伝えたり、「お話上手だね」とほめてあげたりすることが、お子さまの話す意欲につながります。

次回は、お子さまの個性を生かしたコミュニケーションについてご紹介します。


『子どものうそ、大人の皮肉』『子どものうそ、大人の皮肉』
<岩波書店/松井智子 (著)/1,728円=税込>

プロフィール


松井智子

1987年早稲田大学教育学部卒業。1995年ロンドン大学ユニバーシティカレッジ博士課程修了。国際基督教大学、京都大学を経て、2010年より現職。専門は認知科学、語用論。著書に『子どものうそ、大人の皮肉--ことばのオモテとウラがわかるには』(岩波書店)など。

子育て・教育Q&A