鏡リュウジさん(占星術研究家)が語る、「自分の道を究める生き方」【前編】

女性誌の占い特集では欠かせない存在の鏡リュウジさん。一方で、心理学的なアプローチから占星術を研究し、占星術をアカデミックな分野にまで高めてきた立役者でもあります。そのキャリアはなんと高校生のころから。好きなものを突き詰めて仕事にするまでのキャリア形成について、お話を伺いました。

裕福な家庭から一変、激動の子ども時代

僕の母親は、僕が生まれる前から着付けの学校をやっていて、とても忙しい人でした。あまり家にはいなかったので、育ててくれたのは事実上、祖母とお手伝いさんなんです。とはいえ子ども思いの一面もあって、お弁当とかはすごく一生懸命作ってくれましたね。僕はすごくお母さん子かつおばあちゃん子でした。
うちの母は経営者でしたが、母親というものは仕事を持っているくらいが、ちょうどいいんじゃないかという気もします。というのは、どのご家庭も、昔のように子どもが何人もいるわけじゃないでしょうから、ずっとお母さんが家にいると、関心の的が子どもだけになってしまうかと思います。そうすると、たぶん子どもには負担が大きくなってしまうのではないかと。だから、意識が子どもばかりに向かず、自分の仕事のことなど、他のどこかにいっているくらいがちょうどよいんじゃないかって思うんですよ。

父親は、母とは別に和装小物の会社をやっていたのですが、我が家はその時々によって激変の生活をしているんです。当時は景気もよくて、羽振りがよかったんですよ。けっこういいおうちで運転手さんもいたりとか。今から思うと父は割と派手な人だったので、賑やかな家ではありましたね。

そのような賑やかな家だったこともあり、子どものころ、自分の家は他の家とは少し違うな、というのはずっと感じていました。でも、恐らく、父が事業に失敗したんだと思うんですけど、ある日突然急に貧乏になって(笑)没落したんです。僕は、これはまずいと思って、母に「父と別れてくれないか」と頼みました。このまま一緒にいて破産みたいなことになったら困る、と思って。ある種の自己保存本能かもしれませんが、それが10歳くらいの時です。それで1日2日くらいのうちに、夜逃げのように母がアトリエとして使っていたマンションに引っ越したんです。占星術に興味を持ち始めたのもちょうどそのころです。



「どんなジャンルでも1番になったらいいよ。でもまともにがんばったらあかん」

占星術に興味があると知った時の母親は、最初は心配していました。でも高校1年生の時に初めて原稿料が入ったら、急に応援しだしましたね(笑)。母は、日本で初めてきもの学校を開校した経営者でもあったので、自分もパイオニアだったというのもあると思います。当時も働いている母親は多くいましたが、女性の経営者というのはまだまだ少なかったですから。
子どものころから母によく言われている言葉に「何でもいいから1番になりなさい」というのがあるんですけど、同時に「まともにがんばったらあかんで」って言うんです。たとえば、「壁が目の前に立ちふさがったらどうすればいいと思う?」と聞いてくるんですよ。「たたくのか? 抜けるのか?」と答えたら、「ちゃうちゃう! この壁を壊せる人を連れてきたらええねん!」って。特殊というか、恐ろしいことを言ってるな、という感じなんですが(笑)。

また、これは母ではなく祖母の教えなんですけど、中学受験をする時に、僕は京都出身なので、地元の北野天満宮にお参りをしたんです。合格祈願をして帰ってきたら、祖母が「どういうふうにお願いしてきた?」と聞くんですよ。「○○中学に受からせてください、ってお願いしてきた」と言ったら、祖母に「そういうお願いのしかたはだめだ」って怒られたんです。どういうことかというと、今、自分が考えている範囲の中でこの中学がいちばんよいと思っているだけで、本当にそれがいいかどうかわからない。だから、「みんなにとっていちばんよくなるようにしてください」ってお願いしなきゃいけない、と言うんです。
仮にもしそこで落ちてしまったり、失敗したりしても、後から考えるとそれがよかったんだって思えるようなやり方もありますよね。本当にそれがいいかどうかわからないことに対し、「こうなりたい」と初めから目標を1つに絞って狭めない、という教えだったんです。僕も、最初から占星術の研究を仕事にしたい、という目標に向かって行ったわけではなく、みんなにとってよくなるように考えた結果が、今に至る道を作ったのだと思っています。またそれ以上に、今の自分は周りの人に支えてもらったからこそ、ここまでやってこられたんだ、という思いが強くあります。

後編では、占星術に興味を持ったきっかけと、30年にもわたるキャリア遍歴と、好きなことを仕事として続けられる秘訣(ひけつ)についてお聞きします。


プロフィール



占星術研究家・翻訳家。国際基督教大学卒業。同大学院修士課程修了。平安女学院大学客員教授。京都文教大学客員教授。英国占星術協会、英国職業占星術協会会員。日本トランスパーソナル学会理事。雑誌・テレビ・ラジオ・Webでの連載など幅広いメディアで活躍中。

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