山崎直子さん(宇宙飛行士)が語る、「夢をかなえる読書術」【後編】

前回に引き続き、宇宙飛行士の山崎直子さんに読書の効能について伺いました。今回は、読書が心の成長に果たす役割と、子どもに本を与える画期的な方法を語っていただきます。

読書で豊かなイマジネーションの世界が広がる

やっぱり、子どもには本をたくさん読んでほしいです。ひとつの本をじっくり読む中で、自分で考え、自分なりに感じる感性を養っていってほしいなと思うんですね。小学生、中学生、高校生とそれぞれ読むべき本は違ってくると思いますが、どの年代にとっても、読書は考える、いいきっかけになると思います。また、気に入ったこと、気になっていることをたくさん読むうちに、将来の夢の足がかりになることがあるかもしれません。もちろん純粋におもしろくて楽しい本もいいでしょう。

本って、時間も場所も飛び越えて、自分の日常生活よりももっと極端な世界をのぞけますよね。だからこそ想像力が広げられるし、自分だったらその時どうするだろうと、いろいろ考えさせる力があります。



楽しい本と怖い本、どちらも大切

自分の読書体験を振り返ってみると、愉快な本はもちろんですけれども、「怖かったなあ」と思った本が意外に心に残りましたね。たとえば、小学校の課題図書だった『かあさんは魔女じゃない』(ライフ・エスパ・アナセン著)という作品があります。主人公のお母さんがお医者さんのような形で病気の人を助けていたんですけど、ある時難癖を付けられて裁判にかけられ、火あぶりにされてしまう。次に、主人公を育ててくれたおじいさんも結局火あぶりにされるという、ちょっと救いのないお話でした。当時、私は読みながらとても当惑しましたけど、そういう怖さというのは心に残るんです。本当の正義って何だろうとか、自分が主人公だったら大衆に迎合するのかとか、いろんなことを考えさせられました。だから、子どもが読むとしたら両方がいいのかもしれません。楽しいものは純粋に興味が広がるし、衝撃的なものは考える糧となって残るでしょう。私が小学生向けに本を3冊選ぶなら、『火の鳥』『銀河鉄道の夜』『COSMOS』がおすすめですね。きっといろんな方向に心を揺さぶられると思いますよ。



「労働対価」として子どもに本代を渡す

私には小学5年生と2歳の娘がいます。上の子は、私が宇宙飛行士の訓練でいろいろな国を移動する際に一緒にいることが多かったので、飛行機の中などで時間を持て余した時に本を読むようになって、今でもけっこう好きなんですね。だから、自分からどんどん読んでいます。

本を読んでくれるのはうれしいのですが、「新しい本が欲しいけれど、おこづかいが足りなくて」と交渉に来た時、ねだられるままにお金をあげるのもどうかと思い、ちょっとルールを考えました。それは、本を読んだら内容紹介でも感想でもいいんですけど、とにかく書評めいたものを紙に半分くらい書いてくれたら、その本の定価分のお金を私が渡す、という方法です。それをおこづかいにして次の本を買いなさい、と。上の子は小学校高学年なので、何か労働をするとその見返りとして報酬がもらえるんだよ、という教育の意味合いも込めてやっています。
もっとも、書評を書きやすい本と書きにくい本があるようで、この還元システムはできたりできなかったりとムラはありますが(笑)。筆が乗るのは、やはりシリーズものの物語ですね。娘は、最近では『都会(まち)のトム&ソーヤ』(はやみねかおる著)や『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(リック・ライアダン著)といった小説にはまっています。娘から「これおもしろいから読んでみて」とおすすめ本を渡されることも。自分からは読まないだろうなという本がけっこうあるし、なかには大人が読んでもおもしろいものがあって、新鮮ですね。


小学生向け 山崎直子さんおすすめの3冊
『火の鳥』(角川文庫)
(角川書店/手塚治虫(著)/630円=税込)
『銀河鉄道の夜』(岩波少年文庫)
(岩波書店/宮沢賢治(著)/714円=税込)
『COSMOS上・下』(朝日選書)
(朝日新聞出版/カール・セーガン(著)、木村繁(訳)/各・1680円=税込)
『宇宙飛行士になる勉強法』
<中央公論新社/山崎直子(著)/1,470=税込み>

プロフィール



宇宙飛行士。東京大学工学部航空学科卒業、同大学宇宙工学専攻修士課程修了。1996年NASDA(現JAXA)に入社。2010年4月にスペースシャトルで宇宙に行き、国際宇宙ステーションの組み立てに関わる物資の移送を担当。2011年にJAXAを退社後、内閣府の宇宙政策委員を務める。

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