ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第14回】ロンドンでの学校ボランティアで感じたこと

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回はロンドンと日本のカルチャーギャップについての内容でした。今回は、ロンドンの学校や教育についてお伝えします。



夫の転勤に伴いロンドンに移り住む前に、こちらに来たらやってみたいと思っていたことがありました。それはイギリスの学校でボランティアとして活動すること。それまで20年来続けてきた仕事が教育関係だったこともあり、海外の学校を実際に見てみたいと思っていたのです。その念願叶って、日本人の学校訪問ボランティアに登録。活動内容は、学校からの依頼がある都度、数名のボランティアチームを学校に派遣し、日本の言葉や文化を教えるということでした。

私は、これまで3校訪問しました。1校目はロンドン東部の公立中学校の3年生。2校目はロンドン北部の私立小学校の6年生(幼稚園から高校までの一貫校)。そして、3校目は、ロンドン西部の公立小学校の1年生。それぞれに学年も、学校のタイプも、地域も違っていて、イギリスの教育の今を感じるうえで、とてもよい経験になりました。

まず1校目の公立中学校の3年生。この生徒たちは、週1回のクラブ活動で日本の文化や日本語を学んでいるそうです。私たちボランティアが行った授業は、日本語での挨拶や、折り紙、浴衣の試着など。クラブ活動は自主的に選んで参加する活動なので、そこで日本を選んでくれた生徒がたくさんいたことは、うれしい驚きでした。ちなみに、うちの娘も近くの高校との交流会に参加したことがありますが、その高校にも日本について学ぶクラブがあり、その生徒たちと話したときに日本のマンガ・アニメ・ライトノベルなどに詳しい生徒が多くてびっくりしたと言っていました。

2校目の私立学校では、私は日本の数字を教える活動を担当しました。ロンドンには空手教室がいくつかあり、習っている生徒もクラスに何人かいたようで、私が教える前から「いち、に、さん、……」と言える生徒もいました。生徒の一人に「日本語は難しい?」と聞いたら、「フランス語より簡単だよ」との返事。この学校は低学年段階から週2時間、フランス語の授業があるそうです。イギリス全体でも、近年、小学3年生から外国語が必修となったそうですが、これは世界の共通語と言われる英語が母語であるということだけでは、グローバル化した世界を生きていくには不十分「English is not enough.」という考え方に変わってきたためだそうです。しかし、外国語として取り上げられているアジアの言語は中国語のみ。残念ながら日本語は入っていないことのほうが多いようです。

また、時間割表を見てみると、算数や国語(English)などのほかに「Drama」があります。イギリスでドラマ教育が盛んだということは聞いたことがありましたが、先生方のお話では、表現力やコミュニケーション力を育てるうえで重要な教育だということです。

話を戻し、3校目の公立小学校の1年生。日本で言えば、まだ年長さんにあたる5歳児クラス(小学校入学年齢は、日本では6歳ですが、イギリスでは5歳なのです)。とはいえ、数週間後の学習発表会に向けて日本のことを10時間くらい勉強したとのことで、日本に関するクイズにもよく答えられていました。ただ、イギリスの学校にない日本の様子に驚いた反応もありました。たとえば、イギリスの学校でも給食はあるのですが、日本のように子どもの給食当番はないので、日本の小学校の給食配膳の写真を見て生徒たちはびっくり。同じようにイギリスでは掃除当番もないとのことです。子どもからは「日本の子たちは何でも自分でやるから忙しいね」と言われました。

これら3校に共通して印象的だったのは、生徒たちの熱心に学ぶ姿勢でした。私たちの言葉への反応があまりにも素直で子どもらしく、こちらが戸惑うほど。また、自分の意見や感想を積極的に表現し、授業に活気があります。先生たちの生徒への指導の仕方が日本とイギリスとでは違うからなのかとも思いましたが、日本の学校よりはるかに厳しい指導をする先生もいれば、その逆の先生もいましたので、この生徒たちののびのびとした姿の背景にあるのは、教育・社会全体の違いなのかもしれません。

もちろん、よいことばかりではなく、日本以上に学校による違いが大きいということも感じました。まずは私立と公立の違い。私立学校の学費は日本以上に高く受験もありますので、生徒たちは幼いうちから相応の教育を受け、学校のカリキュラムも公立よりも進んだ内容を教えているところが多いようです。さらに課外活動も充実しており、通常の授業以外にもスポーツや芸術、語学などのオプションの個人指導を受けることができる学校が多いようです。また、家庭でも家庭教師から勉強や音楽などを教わっている生徒もいるようです。ちなみに、イギリスには日本の塾のような教育機関はほとんどなく、学校の授業以外の学習については、学校で特別な指導を受けるか、家庭教師などの個人教授を受けることが一般的なようです。

一方の公立学校ですが、同じ公立学校の中でも、さらに学校間での違いは大きいようです。ロンドンは、地域により住民の層が大きく異なります。入学希望者が順番待ちをしているような人気校がある一方で、Free meal(給食代が払えない生徒について給食代が無料になる制度)を受けている生徒が7割以上を占める学校も少なくありません。また、英語を母国語としない移民の子どもが多数を占める学校もあります。私が訪問した学校のうち1校も家庭環境的にはあまり恵まれない生徒が多い学校でしたが、先生たちの教育への取り組みが素晴らしく、生徒たちは授業にも熱心に参加していました。日本以上に学校間での違いが大きいことを感じつつ、恵まれない環境の生徒たちが多い学校でも、努力する先生の姿を見ることができ、救われる思いでした。日本もそうですが、学校の先生たちが生徒とかかわったり、先生たちが生徒のために工夫・努力することを保護者が応援したりすることこそ、教育を良くしていく方法なのではないかと強く感じました。

次回は、保護者の学校や教育へのかかわり方についてお伝えします。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

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