「21世紀」の教育モデルは東北に-渡辺敦司-

東日本大震災から3年がたちます。今回の震災を教訓にして全国で自然災害に備えるとともに、被災地の復旧・復興が依然として道半ばであることを忘れてはならないでしょう。そんな中、東北で取り組まれている教育が世界から注目を集めているといいます。しかも21世紀にふさわしい未来の教育の在り方に、大きな示唆を与える試みだというのです。

文部科学省などは2014(平成26)年2月、仙台市内で「第16回OECD/Japanセミナー」を開催しました。国際的な学力調査「生徒の学習到達度調査」(PISA)の実施でも知られる経済協力開発機構(OECD)が進める教育事業に協力する一環として1992(平成4)年から開催しているセミナーですが、今回は震災被害が大きかった東北の地で、しかも「キーコンピテンシー/21世紀スキル」をテーマに設定したところに意義があります。
キーコンピテンシー(主要能力)はPISAで測ろうとしている能力であり、文科省もこれを意識して全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題(主に活用)を出題したり、改正学校教育法新学習指導要領(外部のPDFにリンク)で「思考力、判断力、表現力」を重視したりしています。また、知識基盤社会と言われるグローバル社会に求められる能力として「21世紀型スキル(技能)」の育成が世界中で模索されており、日本でも「21世紀型能力」として次の指導要領改訂に向けた提案がなされているところです。

OECDのアンドレア・シュライヒャー教育・スキル局次長は、21世紀型スキルが「将来、あったらいいな」という程度の能力ではなく、既に不可欠になっているものだと断言しています。現にマニュアルに従っていればよい仕事から雇用が失われており、21世紀型スキルを身に付けているかどうかが今後いっそう社会・経済的成功への分かれ目になっていくというのです。具体的には、答えのない問題に取り組んで解決する能力、異なる文化を背景にした人たちとも一緒に取り組める対人関係能力などで、そのためにも情報通信技術(ICT)を使いこなす力が不可欠だといいます。
OECDの教育復興プロジェクト「OECD東北スクール」(運営事務局・福島大学)は被災3県の中・高校生約100人が参加し、各地でチームをつくって地域の復興を考えることをとおしてキーコンピテンシーを身に付けているといいます。それも震災という激烈な体験を踏まえて知識を活用し、まさに答えのない問いを自分たちで協力しながら解決していこうというものです。また、ビデオで紹介された宮城県気仙沼市立唐桑中学校(外部のPDFにリンク)のエネルギー環境に関する授業では、東北電力女川原子力発電所から50キロ圏内で甚大な津波被害を受けた自らの体験と科学的データをもとに、将来のエネルギーの在り方を討論させていました。

シュライヒャー次長は「これからは知識を(たくさん覚えるのではなく)どう活用するかが重要だ。教育もカリキュラム中心から学習者中心に変えなければならない。その点で東北はパイオニアであり、世界は多くを学ぶだろう」と話していました。東北のことを考えるのは、復旧・復興のためにとどまらず、日本、そして世界の将来を考えることにつながるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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